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「・・・・・・なんかすごいアウェー感あるんだけど」 「そう?別に誰も徹のことなんて意識してないと思うけど」 「それ!それがアウェーだって言ってんの!!」 それの何が不満だと言うのだろう。高校の卒業式を終えて、卒業旅行という体で徹とディズニーランドにやってきた。3年間をバレーボールに捧げてきた徹と泊まりがけの旅行なんてこれまでは絶対に出来なくて、例えば友達カップルが夏休みに親に内緒でこっそりなんて話を聞いたり、テレビ画面に映る制服姿で園内を歩くカップルの姿を見たり、そのたびに「いつか私も徹と二人でディズニー行けたらいいなあ」なんて内心考えていた。遊園地デートなら、仙台にはベニーランドがあるしもちろんしたことがある。だけど、ディズニーランドというのは、もっと何か特別な場所。そしてそんな私の気持ちを知ってか知らずか、卒業を控えたある日徹から「ねえ春休みどっか行こうよ」なんて誘われて、二つ返事で了承して行き先を提案したんだった。憧れの、徹とディズニーランド。それだけでもまるで今にも子供みたいに走り出したくなるほど嬉しいと言うのに、徹はアウェーだのなんだの言っている。 「ベニーランドなら女の子からキャーキャー言われるのに!」 「徹は何をしにベニーランド行ったんですか私とデートでしょ」 「いや、そうなんだけどさ!・・・けど、なんか東京って俺よりいけめんが多い気がする」 「・・・・・・あーあの人かっこいい」 「ちょっ、!?浮気はダメだからね!!」 自分が「女の子からキャーキャー言われない」なんて言っておきながら私には浮気はダメなんて、と徹の言葉の揚げ足を取りたくなる気持ちが一瞬浮かぶけれど、すぐに消える。だって、そんな徹が愛おしいのだ。入園して真っ先にミッキーとミニーのカチューシャがワゴンで売られているのを見つけて「、これ着けよ!」って笑う徹が、キャラクターに出会って子供と同じかそれ以上にはしゃぐ徹が、ぶつくさ文句を言ってもなんだかんだ私の手を引いてくれる徹が。徹は不満そうに言うけれど、私はむしろこの状況が嬉しいとさえ思う。ベニーランドでは徹が言うようにどこに行っても何をしても女の子たちの視線の中だったけど、ここでは誰も徹に注目しない、徹のことを好きなのは私だけ。だから、口を尖らせる徹ですら愛おしくて愛おしくてたまらない。宮城では抑圧されていた独占欲が、少しだけ解放される。 「がどっかに行っちゃわないようちゃんと手繋いどかなきゃ、ね」 そう言って笑う徹の笑顔が今は私だけのものだと思うと、ずっとこのまま魔法が解けなければいいのに、なんて柄にもなく女の子みたいなことを思うのだ。 ◇ 一日中遊びまわって、夜のパレードもショーも見終わってから、パークの目の前のホテルに向かう。パークから出てもまだこうして世界観に浸って過ごせるなんて、と一日の終わりで疲れているはずなのにというのにまだまだはしゃげそうな気持になるから不思議だ。お部屋でキャストさんの説明を受けた後、真っ先に大きなベッドに飛び込む私を真似て、徹も私の隣にダイブしてくる。 「ちょっと、徹のベッドあっち!こっち私の!」 「ええー!俺もこっちがいい!」 「早い者勝ちだもーん」 「ずるい!ジャンケンしよ、ジャンケン!!」 「やだー私ジャンケン弱いもん!」 「じゃあ一緒に寝よ!」 「え、・・・・・・」 「・・・っいや、ちょっと待って今のそういう意味じゃないから!!俺やっぱあっちのベッドいく!!」 お年頃の高校生カップルなんだからそういうことをしたことがないわけではないんだけど、なんというか夢と魔法で溢れている空間にそぐわないと言うか、無意識のうちにお互い排除しようとしていたみたいだ。徹がそういう意味で言ったんじゃないって分かってるからそれ以上追及もしないで、「と、とりあえず先にお風呂使っていいよ」と徹に促されるままにバスルームに向かった。バスタブに浸かって足を伸ばせば、なんだかんだで溜まっていた疲れがじんわりとほぐれていく。自宅であればいつまででも浸かっていられるけど、今日はそうもいかない。 私と入れ替わりにバスルームに向かう徹を見送ってから、自分のものだと宣言したベッドに再び飛び込んで、スマホとデジカメを操作する。今日一日パークの中で撮った写真の確認作業だ。入園してすぐのエントランスで撮ってもらった写真から、二人でチュロスを持っている写真、ミッキーと一緒に3人で写っている写真、アトラクションで撮影された写真、待ち時間に撮り合いっこした写真、パレードの写真。どの写真を見ても徹と私は楽しそうに笑っていて、お気に入りの一枚を選べなんて言われたら困り果ててしまう。何枚か選んでSNSにアップしようかなあなんて考えていたら、徹がバスルームから出てきた。 「、何してんのー」 「ん?今日撮った写真見返してた」 「あ、俺も見たい見たいー」 ベッドに寝転んだままの私の隣に、徹が同じように寝転ぶ。けど、さっきのこともあって少し意識しているのか、心なしか距離があるような気がする。普段は全然そんなの気にしないくせに、なんだか徹が可愛く思えてしまって思わず小さく笑ってしまった。徹が不思議そうな顔をするので、とりあえず誤魔化すことにした。 「この写真、徹の顔面白いなーって」 「どれどれ、って!これ!二人で変顔しよって言ったのにが裏切ったやつじゃん!!」 「ねえこれtwitterにあげていい?」 「ダメだって!俺がイケメンに映ってるやつにして!!これとか、ほら!俺めっちゃかっこよくない!?」 「えー、これ私が盛れてないから却下!」 「けち!」 そんなこんなで日付も変わろうとしているのに、写真ひとつでこんなにも盛り上がる。さっきまでの距離はとっくに取り払われて、ベッドの上でカメラの奪い合いをしたり、一緒に自撮りしたり、思い出の数はとどまることを知らずに増えていく。写真を撮っては見返して笑う、それをただ繰り返すだけなのに、なんでこんなにも楽しくて、幸せで、満たされた気持ちになるんだろう。だけど、こんな日は長くは続かない。来月からは大学生になる徹と私、今まで見たいに毎日一緒に過ごすのは難しくなる。そんな日々に不安が無いなんて言えば嘘になる。本当は、今みたいに、こうしてずっと一緒にいられたら。 じゃれ合う手がぱたりとベッドに落ちて、そのまま徹にぎゅっと手を握られた。 「ねえ」 「なーに」 「楽しいね、こういうの」 「うん、そだね。ずっと、こうしてたいね」 「ん、俺もそう思う」 「まあ、来月から離れ離れだけど」 「不安?」 「ちょっとだけね。徹はいけめんだから」 「大丈夫だって。俺とだもん」 「何その自信」 「宮城県のミッキーとミニーと言えば俺とだって、岩ちゃんが言ってたような言ってなかったような」 「曖昧だなあ、でもそういうことにしとこ。」 「安心ついでに、・・・これ、あげる」 一度ベッドから降りてカバンをごそごそと探った徹が手にして戻ってきたのは、パークのおみやげ袋に入れられた小さな包みだった。中には、レザーブレスレットが二つ収まっていて、取り出してみるとそれぞれに徹と私の名前が彫られている。パレードを待っている間、「飲み物買ってくるー」と言って出掛けた隙に、注文してきたらしい。徹が私に、赤のレザーブレスを手渡す。そのまま私の左腕につけられたTORUと彫られたそれは、子供のままごと遊びのようでいて、だけどもっと拘束力を持つ赤い糸だ。 「これで、何があっても俺とは大丈夫だからね」 「うん、じゃあ徹にもつけてあげる」 「ありがと」 あんなに騒いだベッド争奪戦も結局は同じ一つのベッドに寄り添って寝転んで、つけたばかりのブレスレットを互いに確かめ合いながら明日を楽しみにして目を閉じた。 いつか徹と私が本物の赤い糸で結ばれるその日まで、どうか私を結びつけて離さないでいてね。 |