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「なあー、今度の連休さ、ディズニーランド行こうか」 孝支と私、2人分の晩ごはんを作っている私の背中に、孝支が柔らかな声で話しかけてきた。カレーのお鍋をかきまぜていた手を止めて、壁にかかっているカレンダーを見やる。今度の連休、って言ったってそんなすぐ連休なんてあっただろうか、ゴールデンウィークが終わってしまったからしばらく連休は無かったはずだけど・・・。考え込む私に、ソファに座っていた孝支が立ち上がって、カレンダーをぱらぱらめくる。そしてカレンダーをめくる手が止まったのは、季節が2つ変わってからだった。世の中がクリスマスカラーで染まり始める時期。これはまあ随分と先だ。しかもなぜ突然孝支がこんなこと言い出すのかも分からず、私の頭の上にはクエスチョンマークがいくつも浮かぶ。 「どしたの急に?」 「ディズニー好きだろ?」 「そりゃあ大好きだし行きたいけど」 「じゃあ決定。ホテルとか予約しような」 「ミラコスタがいいなあ」 「ちょっ、贅沢言うなよ!予約出来たらするけど、出来なかったら無理だからな!」 「分かってるよー」 孝支が鼻歌交じりで楽しそうに笑うので、細かく追及するのは止めた。それに、孝支が言う通り私ディズニー大好きだし。子供の頃家族旅行で行ってから、中学校の修学旅行とか高校の卒業旅行とか、大学生の時も長期休みのたびに遊びに行ったくらい。宮城で就職してからも、少し長いお休みが貰えた時は行ってるし。そんな私にいつも孝支を付き合わせるわけにもいかなかったから、孝支と二人でディズニーに行ったのは3回くらいかな。仲良しのお友達と行くディズニーは、もちろん楽しい。みんなでワイワイ騒いで、写真いっぱい撮って、帰りのバスの中で興奮しすぎて寝れなかったり、本当に何度行っても飽きない。だけど、孝支と行くディズニーは、もっと言葉に出来ないくらい楽しい。いい年して、と思われるかもしれないけど、孝支が王子様で私がお姫様、そんな夢を見てしまう。ああ、何着ていこう。なんて、今からにやにやと考えてしまうくらいに、孝支と行くディズニーランドはまさに夢と魔法の国なのだ。 ********** 「着いた―!」「着いたベ!」 夜行バスから降り立った瞬間、周囲には軽快な音楽が溢れていて、パークのエントランスに向かう家族連れやカップル、誰もがわくわくを隠しきれない、そんな表情をしている。たぶん、私も同じかそれ以上にわくわくした顔をしているんだろうけど。でも仕方がない。大好きな場所に大好きな人といるんだから、今わくわくしないでいつわくわくすると言うのか。装備だって万全だ。前に孝支と二人で来た時にお揃いで買ったパスポートケースを首から下げて、カチューシャもつけて、いかにもな格好。2泊分の荷物をコインロッカーに預ければもう身軽なもので、あとはひたすらにパークをエンジョイするだけだ。 「ちょっと、はしゃぎすぎるなよ。26歳にもなって迷子になるぞー」 「ならない!孝支と手つないどくから!」 「はいはい、お手をどうぞミニーちゃん」 差し出された孝支の手を握って、入園する。どのアトラクションから乗ろうとか、ファストパスはどうするとか、お昼ごはんはここでとか、プランは全て計画済みだ。それでも、クリスマスイベントが始まっているこのシーズン、連休のパークはゲストで溢れかえっている。何をするにも待ち時間がつきものだけど、孝支といればなんてことは無い。最近の職場の話とか、孝支の社会人バレーの話とか、孝支と話したいことは山ほどあって、普段はお互い仕事が忙しくてゆっくり話せないことも好きなだけ話せる。それに、知り合いに出会う可能性がほぼゼロということもあって、いつもより過剰に孝支にくっつくことも可能だ。孝支も同じように考えているのか、なんとなくスキンシップが多い気がする。なんだろう、自分からくっつくのはいいけど孝支がくっついてくると恥ずかしいというかドキドキするというか。それでも海風が冷たいこの季節、孝支とくっついていられるのは有難いし幸せだ。 「ーポップコーン買う?」 「買う!クリスマスのやつがいい!」 「はいはい」 クリスマスイベント限定のバスケットに入ったポップコーンを買って、孝支が首から下げる。なんだかその姿が可愛くて、思わずデジカメで撮影してしまった。それに気付いた孝支がピースサインやら何やらポーズを決めるのでますます可愛くて、何枚も何枚もシャッターを切る。そんなことをして二人で盛り上がっていたら、白いコスチュームをまとったカストーディアルのお姉さんが近付いて来て、「良かったらお二人のお写真撮りましょうか」と声をかけてくれたので、お言葉に甘えてカメラを渡す。「はい、ポーズ!」の掛け声に合わせて笑顔でピースサインをする孝支と私をカメラに収めて、お姉さんが私にカメラを返してくれた。 「まるで本当にミッキーとミニーみたいに仲良しですね!素敵な一日を、行ってらっしゃい!」 去っていくお姉さんの後姿を眺めながら、二人同時に噴き出す。 「本物のミッキーとミニーみたいだって!」 「俺らショー出れるベ」 「でもみんなの前でちゅーするんだよ?」 「お、おう・・・!」 なんて笑いあいながら、孝支ともう一度手を繋いでパークを歩く。でも、もし本当になれるなら私もミッキーとミニーみたいに、孝支とずっと仲良しで一緒にいたいなあと思う。嫌なこと、悲しいこと、二人でいたらなんだって乗り越えられて最終的にはハッピーエンドになる、そんな人生がいいなあ。あとでこっそり、白雪姫の井戸にお願いしておこう。こっそり決心して、私は孝支の手を握る力をちょっとだけ強くした。 ********** 夜のショーと花火を見終えたシンデレラ城前は、最後の記念撮影スポットとして大人気だ。何組ものグループがお互いに、そしてキャストのお姉さんたちにカメラを渡し、笑顔で写真に写っている。そんな中、例にもれず孝支と私もシンデレラ城前で記念写真を撮ろうとしていた。キャストのお姉さんに写真を撮ってもらおうとキョロキョロする私とは対照的に、孝支はなんだか急に口数が少なくなってしまった。なんだろう、やっぱり一日パークで遊びまわって疲れたのだろうか、それとももう一日が終わっちゃうことが寂しいのだろうか。良く分かる。いくらお泊りディズニーで明日もパークに来られるからと言って、一日の終わりはやっぱり魔法が解けてしまうようで寂しいことに変わりはない。どれだけ明日また新しい魔法をかけてもらえるとしても。だから、みんなせめて最後にここで、素敵な笑顔の写真を撮りたいんだろうなあ、なんて。 「・・・、」 「どしたの孝支」 「えっと、あのさ、ちょっといい?」 「うん?」 孝支に名前を呼ばれて振り向くと、孝支が急に私の目の前に跪く。 「ちょ、孝支・・・?どしたの?」 「、さん」 「はい、・・・?」 「・・・俺と、結婚してください」 跪いた孝支が差し出したのは、小さなガラスの靴と、そこに乗ってきらきらと輝く指輪だった。孝支の突然の行動に、周りのゲストやキャストの視線が集まってくる。孝支の顔は真っ赤だけど、でも視線はまっすぐ真剣で、じっと私を見つめている。私はと言うと、目の前の出来事にあまりにも驚きすぎて、思考回路がショート寸前で全く言葉が出てこない。だって、まさか、こんなの想像もしてなかったのだ。確かにシンデレラ城前でのプロポーズは憧れで、孝支に「プロポーズはシンデレラ城前がいいなー」なんて昔冗談めかして言ったことはある。だけど、まさか本当に、こんな夢みたいなこと、あるなんて、思ってなかった。 涙が、頬っぺたを伝うのが分かる。 「・・・はい、喜んで」 とたんに周りから大きな拍手と歓声が湧きあがる。孝支が立ち上がって私の左手の薬指にそっと指輪をはめて、それからギュッと強く強く私の身体を抱きしめた。溢れだした涙は止まるどころかますます増量だ。孝支、孝支と名前を呼んで泣きじゃくる私の頭を撫でながら、孝支が安心したように溜め息を一つ漏らす。 「良かった、断られたらと思うと今日一日気が気じゃなかった」 「もう、孝支・・・ずるい、何なの、こんなの知らなかったっ」 「知ってたら意味ないべ」 「そう、だけどっ・・・!」 「が言ったんだろ、『プロポーズはシンデレラ城前で』って」 「覚えててくれたの、」 「当たり前」 「ミッキーとミニーみたいに、ずっと仲良しでいような」 ああ、孝支も同じことを思ってくれてたんだなあ。些細なことかもしれないけど、こんなにも幸せな気持ちになる。孝支と一緒にいれば、きっと何だってハッピーエンドだよね。いま孝支が私にかけてくれたのは、今日が終わっても、明日になっても、何年何十年経っても決して解けない、特別な魔法だ。 |