触れたいとか話したいとかそんなことはあんまり思わないけど、側にいて。




























































巧は自分のベッドの上に寝転んで、右手で軟式ボールを真上に投げてはキャッチするのを繰り返していた。はベッドの側で、無機質な巧の部屋の床に散らばる野球雑誌をぱらぱらめくっている。少し開いた窓の隙間から、まだ冷気を含んではいるものの、春の風が吹き込んで、2人の髪をさらさらと揺らした。部屋は、静かだった。何を話すということもなく、ただ近くにいるだけの休日。巧は、それが好きだった。へたに話したりするより黙って側にいてくれるの存在が心地良いと思った。
巧は横目でを見た。黒くて長い髪が風で揺れている。ふと、触れたくなった。ボールを投げるのをやめて、じっとの後ろ姿を見つめる。




「巧、どうしたの?」




ふいにに声をかけられて、巧は少し途惑った。は、人の気持ちが読めるんだろうかと思うときがある。弟の青波みたいだ、とも巧は思った。巧はギシッとベッドを軋ませて起き上がると、の後ろに移動しての髪に触れた。




「巧、どうしたの?今日、いつもと違うね」

「ん・・・別に、そんなことないよ」

「あるよ、今日いつもよりやさしい」

「俺、いつだってやさしいつもりだけど」

「だから、いつもよりもっとやさしい」




は小さく笑った。巧はの髪に触れていた手を離すと、こつんと小さくの頭を小突いた。「あ、やっぱりいつもの巧だ」がまた笑う。やっぱり心地良いと、巧は思った。だけどの言うことは強ち間違いではない。触れたいとか話したいとかそんなことは普段思うことはあんまりないのに、今日はなんだかふと、を求めていた。




、キャッチボールしようぜ」

「え?」

「キャッチボール」

「でも、巧は遊びで野球やらないって・・・」

「遊びじゃない。第一、俺がやるって言ってんだからがそんなの気にしなくていいんだ」

「ん、わかった」




に自分の予備のグローブを渡すと、2人は巧の家の前の道路に出た。巧がボールを投げる。天才、と人が呼ぶ巧の右腕から離れた白球は美しい弧を描いての構えるグローブの中に吸い込まれた。乾いた音を立ててボールをキャッチしたは、笑顔で巧にそれを見せると、巧の真似をしてボールを投げた。巧はそれをキャッチする。やっぱり心地良かった。バッテリーを組んでいる豪とするキャッチボールや投球練習とは違う心地良さ、が好きだと巧は改めて思った。巧はにボールを投げ返す。
ぴったり10往復ボールを投げ合った後、2人は梅の木の下に座り込んだ。花はもう咲いてはいないが、幹の色は濃く鮮やかだった。巧は何も喋らない。も何も言わない。が隣にいる、それだけで充分だと巧は思った。





















Stand by me, please?
(ホントは触れたくて話もしたいんだと、分かってる)