「遠いなあ・・・」










3階にある音楽室の窓からグラウンドを眺める。隣で美咲はクラリネットの手入れをしていて、私の言葉にチラッと反応して窓の外を見るとまた楽器の手入れを始めた。本当に、遠かった。この場所からじゃ原田くんはジオラマの中の人形みたいに小さくしか見えなくて、でも隣に行く資格は私には無くて、だからこんな遠くから見つめることしか出来ない。この距離がもどかしい。だけどこれ以上近付くことは許されない。遠い、背番号1の背中。










「ほんと、遠いや・・・」










ここで泣いたってどうにもならないことは自分が一番良く分かってるから、グラウンドから目を上げて夏が近付いた空を見上げた。目を閉じる。陽射しに透かされてぼんやりと瞼の裏が赤い。でも、白いユニフォームの背番号1が消えない。遠くで「巧、ナイスピッチング!」って叫ぶ女の子の声がした。あ、きっと原田くん笑ってる。みんなが知らない、私も知らない、あの子だけが知ってる原田くんの笑顔。










、大丈夫?」










楽器を片付け終わった美咲が、いつの間にか立ち上がっている。閉じていた目を開いたら、スカートを握り締めてる手の甲に滴が落ちた。泣いたってどうにもならないことも分かってるし、愛して欲しいと願う資格なんて始めからありはしないことも分かってる。分かってるのに、泣くなんて最低だ。そんなに脆い人間のつもりじゃなかった。嫌だなあ、泣くなんて今さら悲観的なことしたくないのに。










「あ、れ・・・なんで、目にゴミ入っちゃったかな・・・っ」




















この目もこの耳も


潰れてしまえば


いいのに

(そうしたら涙はもう二度と流れない)