|
「なー、今日部活で紅白戦やるんじゃけど見に来んか?」 お昼休みに突然吉貞にそう言われて、周りにいっぱい人がおるのにそんなこと言われたのが恥ずかしくて、しかも相手は大好きな吉貞だし、顔が赤くなって心臓がドキドキしてるのがばれたりしないか不安で仕方なくて、吉貞にこんな焦っとるところなんて見られたくないから、私は「行く、行くよっ!」って大急ぎで返事をした。そしたら吉貞は「何焦っとるんじゃ、変なやつ」って笑った。ああ、もう。ばれてたみたいだ。 その後授業中にぼんやりそのことを考えてたら、今日は4時から見たいドラマの再放送があるのに気付いてしかも最終回だってことまで思い出したけど、吉貞とドラマのどっちが大事なんじゃろ、って考えたらやっぱり私は吉貞の方が大事なんだと思う。 放課後、部活に行く友達に手を振って一人でグラウンドに向かう。その途中で吉貞を見つけた。もうユニフォーム姿になってる。真っ白のユニフォームが、少し傾いた太陽の光を反射して眩しい。ぼんやり背中を見てたら、吉貞がこっちを振り向いて、目が合った。「ー!」そう叫んで吉貞が近付いてくる。うわ、もうほんと直視出来ん! 「、ちゃんと来てくれたんじゃな!」 「あ、当たり前!」 「当たり前、か。あ、はあっちのフェンスのとこにおって」 「フェンス・・・?なんで?」 「いーからいーから!じゃ、ちゃんとこの吉貞様の活躍見とけよー!」 「はいはい」 吉貞に言われたとおりフェンスのとこに行く。ちょうどバッターボックスが正面に見えるその場所には、すでに何人かの女の子たちがおって、「原田くん三振とれたらええなあ」とか「うち、海音寺先輩のファインプレーが見たいんじゃ!」とか口々に言っていた。ちなみに吉貞ファンの子たちもおって、遠くでアップをしてる吉貞に声を掛けていた。なんか切ない。なんで吉貞は私をこんな場所に誘ったんじゃろう。律儀に手振り返してるし。ギュッとフェンスを握ったら、剥がれ掛けていたペンキの破片が落ちた。 プレイボールの声が響いて、マウンドには原田くんが立っていた。先輩チームが先攻みたいだ。原田くんファンの子たちが一際大きく声を上げる。原田くんは全然気にしてなさそうだけど。原田くんってクールなんじゃなあ、吉貞も少しは見習えばええのに。 ぼやぼやそんなことを考えているうちに攻守が変わって、いつの間にか打席に入っているのは吉貞になっていた。塁に出ている人は一人もいないツーアウト。吉貞もツーストライクに追い込まれていた。吉貞ファンの子たちの声援が大きくなる。わ、私だって吉貞のこと応援したいよ、心の底から大好きじゃもん吉貞のこと。だけど、うまく声にならなくて私はフェンスをまた強く握り締めた。吉貞がバットを構えて、先輩ピッチャーが大きく振りかぶる。ねえ吉貞、お願い打って。吉貞、頑張って。私、吉貞のこと応援しとるから。 「・・・っ吉貞打ってぇ!」 「好きじゃーっ!!」 思わず叫んだ。吉貞も。カキーンと渇いた金属音をたてて、白球は外野の頭上を越えると、私が立っているフェンス近くに落ちて私の目の前まで転がってきた。外野が走って球を拾いに来る。吉貞が、打ったボール。吉貞はやることがキザすぎるんじゃ、私どうしようもないよ嬉しすぎて。 3塁まで走ってスライディングした吉貞が立ち上がって、こっちを向いてVサインをしているのが見えた。行儀が悪いかなあ、そう思いながらも私はフェンスに足をかけてよじ登ると。大きく息を吸った。 |