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「ううっ、寒い寒すぎる・・・・・・12月だっていうのに、なんだこの寒さは」 返事は、無い。誰に話しかけるというわけでもなく、部活を終えて昇降口に向かう廊下のあまりの寒さに思わず考えが口から漏れてしまった、そんな感じ。既にマフラーも手袋も装着済みで、もちろんコートだって着ている。12月からこんな重装備でどうやってこれから真冬を乗り切るのだろうかと自分でも不安になるけれど、変に我慢して風邪を引いてしまうのもバカみたいだから、大人しく自分の身体に従う。 学校から駅までの徒歩10分間だけ我慢すればいいのだ。さっさと帰ってあたたかいお風呂に入ろう。 コートの上から腕をさすりながら足早に廊下を歩いていたら、反対側から人影が向かってくることに気が付いた。背が高い、あの歩き方、降谷くんに間違いない。 「降谷くん」 「うわ、びっくりした。こんなところで何してるのさん」 「私は部活終わって帰るとこ。降谷くんこそ何してんの」 「・・・・・・ちょっと、職員室に呼ばれて」 「あ、英語の課題?」 「・・・・・・」 どうやら図星だったみたいだ。 降谷くんは誤魔化すようにそっぽを向いて、その表情がちょっと面白かったから思わず笑ってしまう。野球してるときはあんなに真剣で強気なのに、勉強に関してはちょっと違うらしい。そんなギャップのお陰で、最初は近付き難かった降谷くんと今ではこうして他愛ない会話が出来るようになったのだけど、きっと降谷くんにとっては不本意だろうから黙っておく。 不意に昇降口から冷たい風が吹き込んで、思わず肩をすくめた。「さむっ、」まるで条件反射のようにその言葉を口にしながら目の前の降谷くんをちらりと見ると、部活を終えてそのまま校舎に戻ってきたのか薄手のアンダーシャツ一枚でけろりとした表情をしている。 「・・・・・・降谷くん、そんな格好で寒くないの?」 「え?別にそんなに、さんが思ってるほど寒くない」 「そっか、降谷くん北海道出身だもんね。寒いの平気なんだ」 「まあそれなりに。っていうか、スカート短すぎるんじゃない」 降谷くんの視線が私のむき出しの脚に注がれた。目の前でまじまじと見られると、普段は全然気にしていないのに、急に恥ずかしくなるから不思議だ。冷たい膝小僧がじんわりと熱を帯びるような気さえしてくる。当の降谷くん本人はそんな私のことなんて全く気にしていないように見える。 それにしたって、降谷くんは乙女ゴコロというものを全く分かっていない。このスカート丈は、先人達による長年の試行錯誤により編み出されたベストバランスなのだ。パンツが見えるほどに下卑た短さでもなく、田舎の真面目で純真無垢な中学生のような垢抜けない長さでもない、女の子が一番可愛くスタイル良く見えるスカート丈。それはどんなに暑くても寒くても守られるべき領域であり、女子高校生一番の武器でもある。 まあ降谷くんは案外鈍感だし、そういうの気付いてないんだろうけど。 「降谷くん、これは譲れない戦いなんだよ。どんなに寒くても、これだけは譲れない・・・・・・」 「ふぅん、女子って大変なんだね」 「そうだよ、これでも結構頑張って戦ってるんだよね私」 「何それ、」 野球するとき以外はあんまり表情を変えない降谷くんが、小さく笑う。 降谷くんって、笑うと右側にだけ小さくえくぼ出来るんだ、知らなかった。また新しい降谷くんを知ってしまった。クラスメイトとして、こうやってどんどん今まで知らなかった降谷くんを知っていくのは、すごく楽しいし嬉しいような気がする。どうしてだか分からないけれど、そう感じてしまうのだから仕方ない。 「あ、そろそろ職員室行かなきゃ」 「そだね、私も帰ろっと。じゃあ、降谷くんまた明日ね」 「うん、また明日」 手を振ったら、降谷くんも小さく手を振り返してくれた。それは降谷くんにとってはこっそりだったのかもしれないけどばっちり見えていたから、再度大きく手を振ったらパッとその手は隠されてしまった。 相変わらず、何考えてるのか分からない降谷くん。だけど、明日、明後日、その次の日も、また私の知らない降谷くんが見られたらいいなって、こっそりそう思うのだ。その気持ちはなんだかとても暖かくて、さっきまで感じていた寒さなんて忘れてしまうほど。 また明日、早く降谷くんに会いたいって思うこの気持ちって、何なんだろうね。 ![]() |