私の視界を覆うのは、さらさらと揺れる赤い髪だ。ベッドに押し倒されてそのまま深いキスを受け入れながらそっと目を開いたら、そうだったのだ。電気の点いてない部屋は真っ暗だけど、カーテンの隙間から差し込んでくる外の街灯の淡い光を反射して、凛の髪はきれいに輝いて見える。その髪の毛を透かして見える凛の顔は、眉間にうっすらと皺が寄っていて、だけどそれは私の中のはしたない感情を刺激するには十分すぎるほどに扇情的な表情なのだ。再び目を閉じて、角度を変えては何度も落とされるキスを受け止める。私はとても息継ぎが下手くそだ。息継ぎのタイミングは何度も訪れるのに上手く息を吸えなくて、段々と苦しくなってくる。水の中にいるみたい。
我慢できなくなったところで凛の厚い胸板を叩いて限界だと告げると、凛は怪訝な表情で唇を離す。苦しいって、分かってるくせに。





「なんだよ、もう限界か」

「水泳やってる凛と一緒にしないでよ、もう」

「悪ィ悪ィ、そんな怒んなって」

「別に怒ってな、」





分かってて同じような質問を繰り返すのだから、凛は意地悪だ。怒ってないと言い返そうとした言葉を遮って、もう一度噛みつくようにキスされる。さっきとは違って、キスの最中に凛の大きな右手が私の着ている部屋着のキャミソールの中へするすると侵入してくる。普段は大胆に荒々しく水面を掻くその手が、今はまるで同じ人物の手とは思えないほどに優しく柔らかだ。手を繋いでこの部屋に戻ってきたときは、夏場だというのにひんやりしていて気持ち良かった掌がじんわりと温度を上げていくのを身体で感じながら、凛にされるがままに愛撫を受け入れていく。ブラカップ付きのキャミソールだからと部屋着に着替える時にブラは外していたから、あの煩わしい瞬間を経験することなく、凛の指先が器用に私のいいところを刺激して、そのたびに私の口からは堪えきれない声が零れて、下半身がじんじんと疼くのを感じる。
そんな私の表情を上から満足そうにニヤニヤしながら眺めていた凛が、スッと顔をおろして私の肩口にその口を近付けた。襲い来る痛みを予感してギュッと目を閉じるのとほぼ同時に、凛のギザギザの歯がそっと私の肩に食い込む。凛はキスマークなんていう甘い所有のしるしは残してくれない。いつだって痛みと一緒に、どこにもいかないようにと重い鎖のような歯列の後を残すのだ。初めて凛とセックスをしたときは単なる痛みしか感じなかったけれど、何度も何度も凛とこういうことをしてたくさんの噛み跡が残されていくたびに、私はその痛みですら愛おしく感じ、快感に変えられるようになってしまった。もっと、もっと、消えないように、私はずっと凛のものだよって、誰が見ても分かるほどに強く、その跡を残してほしいとさえ思う。第一、凛の手が私の下半身に伸びて一番気持ちいいところを執拗に攻めるとき、必死に声を漏らさないように唇を噛みしめる私に対して差し出された凛の反対の指をはしたなくも私だって咥えてしまうのだから、お互い様だろう。





「ふっ、あ、あっん、凛もう、」

、もうイくのかよ。まだ指2本しか入ってねーのに」

「っ意地悪、」

「はいはい、どーぞどーぞ」





気持ちいいところを何度も何度も擦り上げられて、粘着質だった卑猥な水音はいつの間にかじゅぷじゅぷと水の入ったコップを乱暴にかき混ぜるような音に変わっている。凛の指の動きが一層激しくなって、まるで小さな子供がおもらしでもしたのかと思うほどにびっしょりとベッドを濡らしてイってしまった。凛はそれをみてニヤリとした笑みを浮かべる。私だけが先に達してしまった時、まるで私が淫乱とでも言いたいかのように見下ろしながら笑うその凛の表情にいつも羞恥心を感じるのだけど、それさえもさっきイったばかりの私の身体を再度簡単に燃え上がらせるのだから、本当に私は淫乱なのかもしれない。凛が与えてくれるものなら、痛みだって羞恥心だって、何だって私にとっては最高のご褒美でしかない。
凛だってそれを分かっているから、私に何ら了承を取ることなく下着を乱雑に脱ぎ捨てて再度私に覆いかぶさってくる。グイッと両脚を広げられて続いて全身を襲う圧迫感に、頭のてっぺんからつま先までビリビリと電流が走るみたいに反応してしまう。凛の鍛え上げられた身体が私の全身を包んで、突き上げられるたびに気持ち良さのあまり涙がぽろぽろと零れる。こんなに感じてしまっていいのかと不安になるけれど、いつも余裕綽々な凛の表情が切なそうに目元が赤く染まるのを見て、キスをどれだけしても乱れることのなかった呼吸が荒くなるのを聞いて、私のなかで存在感を増すその熱さを感じて、ああ私だけじゃない、凛も気持ちいいんだってこっそり確認するのが恒例だ。
「っ、、」と苦しげに吐息と一緒に私の名前を呟いて、凛がまた私の首筋に顔を埋める。がぶり。また新しく跡が増える。遠慮しないで、もっと跡をつけていいんだよ。そう言葉にはしないけれど伝えるように、凛が私に腰を打ちつけるリズムに合わせてさらさらと揺れる赤い髪を撫でながら、ちょうど私の口元にある凛の肩にそっと歯を立てる。噛み付いた口元からは最早我慢する気なんてとっくに無い矯声がだらしなく零れて、鼓膜を通過して二人の刺激する。凛が歯を立てるのがより一層深くなって、お互いそろそろ限界が近いことを悟った。





「り、んっ、凛、・・・っ大好き」

「ああ、俺もだよっ・・・っ」





大好きなんて何度も何度も使われて変わり映えのない言葉だけど、普段は「うっせー」と照れてそっぽを向く凛が今だけはきちんと返事をしてくれるのが嬉しくて、いつもこの瞬間口にしてしまう。がぶり。血が滲むほどに噛み付かれて、凛が即座に私から離れてお腹の上に熱い液体をどくどくと吐き出した。











乱れた呼吸を疲れた肢体をベッドに投げ出したまま整えていたら、ティッシュで事後処理を終えた凛がぎゅっと強く抱きしめてきた。別に気にする必要なんて無いと何度言っても、凛はいつもセックスを終えた後に自分が私に付けた噛み跡をゆっくり舌で消毒するかのように舐めながら「悪ィ」と呟く。今日もいつもと同じように、まだ上手く体が動かせないでいる私を抱きしめながら凛がぺろりと跡を舐めていく。そのたびにまた身体が疼く。何度言っても凛がこれを止めないのは、私がこうして身体が疼くことを本当は凛が知っているからじゃないかと思う。口から「んうっ、・・・」なんて甘い声を出すのだからばれない訳が無いだろうけど。





「凛、もういいってばぁ・・・っ」

「何が、もういいって?」

「・・・・・・分かってるくせに、いつもそうやって意地悪言う」

見てると楽しくてつい、からかいたくなんだよ」

「ねえ、意地悪はもういいから」

「はいはい」





噛み付くほどの衝動を飼っているのはなにも凛だけじゃない、私だって同じかもしかしたらそれ以上に凛に欲情してるんだって、言葉にしなくても伝わる方法があれば、もっともっと楽に私たちはお互いを求め合えるのにね。そんなことを考えながら、私を貪るように噛み付く凛に、お返しと言わんばかりに私も小さな歯を突き立てるのだ。











私の
(愛しい愛しい私のケモノ)