「じゃあ、また秋にもう一回帰ってくるから」

「はいこれお土産。幸男さんとあちらのご家族にもよろしくね」

「姉ちゃんまたな!!結婚式で東京行けるの楽しみにしてっから!」

ちゃん、体には気をつけてな」

「うん、おじいちゃんおばあちゃんもね、まだ暑いから体調気をつけて」

「何かあったらすぐ帰ってきていいんだからな」

「もうお父さんってば、変な心配しないでよね。ちゃんとお嫁に行きますから」

「お父さんはが可愛くて可愛くて仕方ないのよ。ほら、徹くんと一くんがお迎えに来たみたいよ」

「ん、じゃあ。また着いたらメールするね」





恥ずかしがって嫌がる弟の俊も含めて家族全員と一人ひとりハグをして、独身最後の実家で過ごすお盆休みは終わりを告げた。来年のお盆はあちらの実家で過ごすかもしれないし、もしこっちに帰ってくるにしろ私一人じゃない。何より私はではなくなっているのだから。
玄関を出ると、快晴だった。わざわざ車から出て徹と岩ちゃんが私を迎えてくれる。ひらひら手を振る徹と、軽く手を挙げる岩ちゃんが、こっちに帰ってくるときとは逆にすかすかのキャリーバッグをどっちが持つかケンカをして、結局岩ちゃんが車のトランクまで運んでくれた。





「ありがと岩ちゃん。やっぱり頼りになるね」

「おう、考え直すなら今だぞー」

「ちょっとちょっとちょっと!!!ぬけがけ禁止って昨日も言ったでしょ岩ちゃん!」

「大丈夫、私ちゃんと結婚するから」

「俺よりいけめんじゃないんでしょー」

「まあね、徹はやっぱり一番いけめんだと思うよ」

「・・・なに、急に素直になっちゃって!」

「岩ちゃんよ、徹を一発殴ってくれる?」

「任せろ」

「痛い痛いっ!一発じゃないじゃん!もう!いいから早く車乗って!!」

「はいはい」

「へいへい」





助手席に私、後部座席に岩ちゃんが乗り込んで、徹の運転する車はゆっくりと発進した。街並みは、私たちが高校生だった頃と変わらない部分もあれば変わってしまった部分もある。そんな当たり前のことにしみじみとしながら窓の外を眺める。来年の夏は、どんな景色なんだろう。そして私たち3人はどうなってるんだろうね。それぞれの道を歩いている3人が、たとえ一緒にいなくても幸せだったらいいな。
駅ビルの中でごはんを食べて、東京へのお土産を買って、新幹線の改札前で私たちは向かい合った。





「徹、岩ちゃん、本当にありがとう」

「なーに言ってんの、仲良しトリオなんだから当然でしょ!」

「そうだぞ、だからそんな顔すんな」

「うん、そうだね。結婚式の招待状出すから、返事ちょうだいね」

「はいはーい!」

「おう、楽しみに待ってるからな」

「ん。・・・・・・じゃあ、」

「またね、。東京で偶然会えたら無視せずに声かけてよ」

、またな。風邪引くなよ」

「うん。またね、徹、岩ちゃん」





くるりと2人に背を向けて、改札を通り抜ける。涙が零れそうになったけど、ギュッと唇を噛みしめて我慢した。もう、戻ることは出来ないんだから。笑って私の背中を押してくれた徹と岩ちゃんのためにも、私はしっかりと前を向いて歩いていかなくちゃ。





徹、岩ちゃん。本当はね、私まだ2人に言ってなかったことがあるんだ。私の初恋、2人だったってこと。何をしてもかっこいい徹、いつだって優しくて頼りになる岩ちゃん、そんな2人が私はずっとずっと好きだった。いつも3人一緒にいるのが楽しくて、そんな関係を壊すのが怖くて、結局最後まで言い出せなかったけど。
あのね、もしタイムマシンがあったとして、昔に戻ってこの気持ちを伝えてたらどうなってただろうって思ったことがあるんだ。もし結婚相手が徹か岩ちゃんだったら、って。そんなどうしようもないことを考えなかった訳じゃない。もし昨日、2人が私を引き留めていたらそうなった可能性もあったかもしれないね。だけど私たちはそれがいけないことだと分かり過ぎるほど充分に大人になっていて、笑うことしか出来なかった。きっと、それでいいんだよ。生まれ育った街並みが少しずつ変わっていくみたいに、私たちも変わっていくのは当然だ。だからもう、タイムマシンが欲しいだなんて、「また明日」を純粋に信じ続けていたあの頃に戻りたいなんて、そんなことを考えるのはやめようと思う。目の前にあるのは、3人それぞれの未来だけだ。
一瞬で移り変わっていく車窓の景色に大好きな2人の笑顔を重ねて、私はそっと目を閉じた。












▼夏の終わり▼