目を開くとそこは見慣れた天井。
窓から差し込む光にそっと右手を翳す。
今までなら光はその右手に反射して、彼の金色の双眼を照らしていたのだけど。
今は違った。その右手は光を反射しなかった。
彼の右手は人間の右手だった。
起き上がって左足を動かしてみる。
軽くベッドの軋む音がして、人間の左足が彼の目に映った。
隣のベッドには、懐かしい弟の顔があった。
そこには彼が望んでいたものがあった。
弟の身体、自分の右手、左足・・・
「・・・俺は・・・取り戻したのか?全てを・・・」
けれど何か足りない、何か足らない。
「・・・?」
無意識に彼の唇から紡がれるその名は何処へ行くのか
返事は無かった。
今までなら、優しい笑顔とあたたかな口付けで、彼を眠りの国から連れ出してくれた
彼女は何処にもいなかった。
「・・・ッ!ッ?!」
思わず声を張り上げてしまう。
「ん・・・兄さ、ん?どうしたの、そんな大声で・・・」
隣の弟がうっすらと瞳を開く。
「が・・・が、がいないんだッ!」
「・・・?」
「そうだよ、だ!いないんだよ!」
「・・・って誰?」
「え・・・?」
「アル、お前・・・憶えてないのか?」
「何のことだよ兄さん・・・って誰なの?」
何が起こったんだろう。
「いつも一緒にいただろッ?!茶髪で・・・」
「・・・そんな娘、いないよ」
「なんだって・・・?」
涙がこぼれた。
一粒、二粒、三粒・・・
こんな世界、嘘だろう、偽物だろう。間違いだろう。
「ーーーーーーーーーッ!!」
「・・・エ、ド・・・?」
「?!」
目の前には不安げな瞳で俺を見つめるがいた。
「・・・?」
「どうしたの?すごくうなされてた・・・」
涙がこぼれた
悲しいんじゃなくて
「悪い夢・・・見たんだ」
「そう・・・どんな?」
「が、いなくなる夢・・・」
「私は何処にも行かないよ。いなくなったりなんてしない」
彼女は微笑む。
偽善的なまでに優しく美しく。
「、好きだ。好きだよ、誰よりも・・・」
「私も、エドが好き」
そっと落とす口付けは、すぐに消えてしまいそうに儚くて。
瞬きをすれば忘れてしまいそう。
だから彼は瞳を閉じて、再び眠りの国へと落ちてゆく。
其処は偽りの世界。
けれど何が真実で何が虚偽なのか分からなくて。
彼はまた、何度も何度も彼女の名を叫ぶ。
「、ーッ!ーーーッ!!」
「エド、目を覚まして。私は此処にいるから」
「・・・不安なんだ」
「どうして?」
「・・・いつか智菜がいつの日にか俺達が元の身体に戻った時に・・・もしかしたら
がいなくなるんじゃないかって・・・」
「・・・」
「俺がに逢ったのは、俺達が禁忌を犯して身体を失ったからだ。だから・・・だから、
俺達が失ったものを取り戻したら・・・」
得たものは消えてしまうんじゃないか。
彼女も、彼女との思い出も、彼女への想いも、何もかも。
全てはいつかは消えてしまうものだから。
永遠の存在なんて有り得ないのに。
所詮イミテーションな存在なのに。
失って傷つくのは自分自身なのに。
なのにどうして彼等は求めるのだろう。
「俺は、何を求めてるんだろう・・・」
何を真実として
何を正義として
何を強さとして
歩いてきたんだろう。
「俺は・・・俺はッ・・・」
いっそ自らの手で壊してしまおうか。
他の何かに取られてしまうのは辛いから。
何もかも自分の手で終わらせてしまいたい。
彼は白く細い彼女の首を両手で強く握りしめた。
「・・・っ、うッ・・・ッ」
歪んだ唇から小さく声が漏れた。
「・・・エ、ドッ・・・好き・・・ッ」
歪んだ瞳から小さな涙がこぼれた。
その雫に彼は驚いて、彼女の首を握っていた手を離して、咳き込む彼女を見つめた。
「・・・ごめん、ごめん・・・ごめんな」
「エ、ド・・・ッ」
そっと彼女を抱きしめた。
いいじゃないか、がいれば。
いいじゃないか、今を生きれば。
ただ、それだけ。
時々迷うし、見失うし、分からなくなるけど。
一つだけ確かなものは、ただ、それだけ。
君一人、ただ、それだけで。
今一瞬、ただ、それだけで。
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シリアス、だけど不幸じゃない。
好きすぎて失うのが怖い。でも最後に気付く。
君がいる、ただそれだけでいいんだと。
色々大変だけど、確かなもの一つだけ。