|
新しく買ったパンプス。久しぶりに部活が休みの影山くんと映画を見に行く約束をしたから、この前買ってきたばかりのパステルブルーの7センチヒール。普段はあんまりヒールが高い靴は履かないんだけど、なんだかこけちゃいそうだし、それでも背の高い影山くんに少しでも釣り合うようになりたくて買ってしまった。ついでに、パンプスに合わせて新しいワンピースも。影山くん、かわいいって言ってくれるかな。言いそうにないなあ、なんて。別に言ってくれなくてもいいんだ、心の中で少しでも思ってくれれば。 不器用な私が頑張って編みこんだ髪型を最後にもう一度玄関の鏡でチェックして、新しいパンプスを履いて待ち合わせの駅に向かう。影山くんとは毎日教室で顔を合わせてはいるけど、デートは本当に久しぶりだから、本当に楽しみでわくわくして仕方なくて、子供みたいだ私。 「影山くん!」 「おう、早いな」 「影山くんこそ早いね、まだ5分前なのに」 「ちょっと早く目が覚めただけだ」 「そっか、私も今日は早く目が覚めちゃった!」 「ん、じゃあ行くか、」 影山くんが私の名前を呼んでサッと手を握る。部活の時は結構毒舌な影山くんだけど、2人の時は名前呼んでくれるその声がいつもより優しくて、こんなに大きい手でいつもバレーボールをかっこよく操っているのに、私の手を握ってくれる時はなんだか優しい気がして、不思議な感じだ。みたいなことを考えながら歩いてたら、顔がへらへらしてたみたいで、「何へらへらしてんだよ、アホみたいな顔してるぞ」って影山くんに言われてしまった。影山くんと手を繋いで歩けるのが嬉しくて楽しいからだよ、なんて言いたいけど言えないから黙っとくことにしよう。 映画館で公開されたばかりのハリウッド映画を見て、お昼ごはんを食べながらその感想を話したり影山くんの日向くんへの愚痴を聞いたり、スポーツショップで新しいシューズを見て、私の買い物に付き合ってもらって、あまり休むことなく歩き続けた私の足が、履き慣れてないパンプスの中でついに悲鳴を上げ始めてしまった。 影山くんの隣で歩きながら、楽しそうにバレーの話をする影山くんの言葉に最初はきちんと返事してたのに、だんだん足の痛さに集中してしまって、さっきから「へー」とか「あ、そうなんだ」を順番に繰り返してるだけな気がする。 「・・・おい、話聞いてんのかよ」 「えっ、うん聞いてる、聞いてるよ影山くん!」 「名前」 「あ、飛雄くん」 「・・・」 「・・・飛雄くん、あの、」 「なに」 「・・・足痛い」 「そんなことだろうと思った」 影山くんは一つ溜め息をついて、私の両手いっぱいの荷物を全部優しく奪い取ると、近くの公園のベンチに私を座らせてくれた。ああ、せっかく少しでも影山くんに近付きたくて背伸びしたくて履いてきたパンプスなのに、足は痛くなっちゃうし影山くんに溜め息はつかれちゃうし、何してるんだ私。ずきずき疼くのが足なのか心臓なのか良く分からないけど痛くて、涙が出そうになって思わず唇を噛みしめる。 「なっ、泣くほど痛いのかよ!ばか!」 「うえっ、ち、違うっ!泣いてない!」 「嘘つけ!なんでこんなの履いてくるんだ!」 「・・・っ!!」 「いつもみたいにぺたんこの奴履いてればこんなんならないだろ!」 「・・・っ、だって!」 「だって、何だよ」 「かげっ、飛雄くんとっ、背が高い方が、キスしやすいと思ったんだもん!!!!」 「・・・っ!!!!」 ここが公園のベンチだということも忘れて、私は大きい声でとてつもなく恥ずかしいことを勢いに任せて言ってしまった気がする。飛雄くんの顔は真っ赤になってるし、持ってた荷物は床にバッサーって落ちてるし、なんかもう私だって死ぬほど恥ずかしくて、でももう一回言ったからにはどうとでもなっちゃえ的な気持ちだ。 「飛雄くんが、背が高いから、少しでも、キスしやすくって、思ったのにっ!」 「なっ、ちょっ、分かった!分かったから!、もう泣くな!」 「なのに飛雄くんのばかっ!鈍感!にぶちん!おたんこなす!鈍感!」 「悪い!俺が悪かったって!だから泣くなよ!」 「・・・飛雄くん、」 「はい」 「・・・キスしたい」 立っていた飛雄くんが、一瞬躊躇ったあと、私の目の前に跪く。飛雄くんの顔、私と同じ目線。困ったような顔してる飛雄くん。ちょっとだけ悪いことしちゃったかな、って思ったけど、こんな飛雄くんを見ることが出来たから今日くらい良いよね。 飛雄くんの小さなキス一つで私の涙なんてどっかに行っちゃうんだから。 |