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黒尾くんが私のことを好きらしい、そういう噂話が聞こえてきた。ギクリ、としてしまう。その噂、大変よろしくない。空気を読まず「この前4組の××さんが告白したらしいんだけどー、他に好きな人がいるからって断られたらしくてー、で誰?って聞いたら『』って答えたらしいよー」とぺちゃくちゃ喋り続けるクラスメイトの口に、今まさに食べようとしていたおにぎりを突っ込んで塞いでやりたい。私と向かい合ってかわいくお弁当箱にフォークを向けている彼女の顔が、みるみる真顔になっていく。 「ちょっ、そういう根も葉もない噂話やめてよねー。私、黒尾くんと話したことすらないし、別の『さん』じゃないの?」 「え!そうなの!?××さんだけじゃなくて△△さんもそう言われたらしいんだけど」 「何それ、黒尾くんそんなにモテるんだね」 「そっち?まあもうちょっと調べてみるわー」 やっとこさ自分のグループに戻っていったクラスメイトに呆れた溜め息を零しつつ、目の前の彼女を見やると、なんだかよく分からない表情で卵焼きを口に運んでいる。そりゃ無理もない。だって彼女は、黒尾くんに随分と前から片想いをしているのだ。親友、というとなんだかこそばゆい感じもするけどそれ以外に私と彼女との間柄を上手く表す言葉が無いので仕方がない、中学生の時からいつも一緒だった私と彼女、そんな彼女に黒尾くんが好きだと打ち明けられて、私はそれが誰だか知らなかったけれども、応援しないわけがない。彼女が黒尾くんの試合の応援についてきてと言うのでついていって一緒に盛り上がったり、文化祭で黒尾くんのクラスの出店で一緒にたこやきを買ったり、どれも些細なものばかりで、私は黒尾くんと話したことも無いしもちろんメアドだって知らない。それなのに彼女の前であんな噂を口にするなんて、そりゃ不機嫌にもなるだろう。 「大丈夫?あんな噂、気にしないでいいよ」 「、黒尾くんのこと好き、なの?」 「はぁ!?いや、全然!話したことも無いし!なんか目つき怖いし!・・・あ、ごめん」 「んーん、私こそ変なこと言ってごめん」 「それよか、今度のIH予選も応援行くんだよね?なんか差し入れとかした方がいいんじゃないの?」 「そうそう、何が良いかなー」 良かった、元の彼女だ。とりあえずははた迷惑なことをしている黒尾くんに文句の一つでも言いたい気持ちになったけど、何度も言っているとおり私は黒尾くんと話したことが無い上に、こんな噂が広まっているタイミングで黒尾くんと話していたりしたらますます噂を助長させるだけだろう。私は何もせず、噂が単なる噂に過ぎなかったと認識されるのを待っていればいい。 そう思っていたのに、なぜか私の目の前には黒尾くんが立っている。黒尾くんはバレーボールをやっているせいか身長が高いので威圧感が半端じゃない。たぶん私と20センチ以上違う。相変わらず目つき怖い。とても同い年とは思えない。 とりあえずこの状況が上手く理解できないでいるけど、私は今日は園芸委員会の仕事で花壇の水やりという重大な使命があるわけで、すすすーと黒尾くんの横をすり抜けようとしたら通せんぼされてしまった。反対にすすすーと移動してもまた通せんぼされてしまう。ほんと何この状況。 「・・・あの、私委員会の仕事があるので」 「さん、話がある」 「いや、あのですね、委員会の仕事があるって言ってるじゃないですか」 「3分だけでいい」 「・・・はい、何でしょう」 黒尾くんの視線が怖すぎて言うことを聞いてしまった。園芸委員長、すみません。遅刻したのは私のせいではありません。仕方なく黒尾くんの話を3分だけ聞くことにして、どうせなら委員会遅刻の腹いせとはた迷惑な噂話の文句をついでにぶつけてやろうと計画を立てる。せっかくの機会だ。 黒尾くん、私は君のことを、 「あの噂、知ってると思うけど」 「え、ああ黒尾くんが私のことを好きとかいうやつですか。知らない女の子から絡まれてとんだ迷惑なんですけど」 「まあそうだろうなあとは思ってたんだけど」 「分かってたならなんでそういうこと言うかな・・・」 「いや、でも嘘つくわけにもいかないし」 「は?」 「だから、ホントだって言ってんの」 「いやいやいやいや!!黒尾くん何言ってるの!!私と話したことないじゃん!!」 「まあそりゃそうなんだけど、ほら、結構試合とか来てただろ」 「それは友達の付き添いで、」 「知ってる」 「・・・じゃあ、なんで今こういうこと言うの」 「付き合って、とは言わねーけど。でも噂が噂じゃないって理解しといてほしいから」 |