きれいに整えられていたさんのベッドを散々ぐちゃぐちゃにしたあとで、乱れた呼吸を整えようと二人で毛布にくるまっていたら、さんが毛布から顔の上半分だけを出しながら、小さな声で「徹くん、」と俺の名前を呼んだ。今まで何度となく呼ばれてきた名前だけど、それも今はまた違った響きで俺の鼓膜と心臓を揺らす。なぜなら、さんが呼ぶ俺の名前は、前とは違って好意に満ちているからだ。ずっと、抱きしめたかった、キスしたかった、セックスしたかった、さん。一気に全部の夢が叶ってしまって、明日からどうしようなんて惚気たことを考えてしまう。





「なあにさん」

「・・・私、徹くんにまだ謝らないといけないことがあるんだ」

「え、何?もしかしてこれまでのことなら全然気にしないで、」

「私、徹くんに嘘ついてた」

「うそ?」





さんは出していた頭をすっぽりと毛布で覆ってしまって、それから俺の心臓あたりにぐりぐりと小さな頭を押し付けてくる。さんが俺についていた嘘?一体何だろう。騙されていたなんて一ミリも感じていないし、もし本当に騙されてたんだとしても何も気にしなくていいのに。やっと、俺のことを好きになってくれたさんは、どうやらずいぶんと臆病みたいだ。これまでどれだけ傷付けられてもさんのことを嫌いになるどころかずっとずっと好きでいた俺なのに、嫌われるのが怖いのかな。なんてかわいいんだろう。さんの後頭部をよしよしと撫でながら、さんの次の言葉を待つ。





「私、優弥が浮気してるって気付いたあと本当はすぐ別れてた・・・」

「え!よ、ヨリ戻したんじゃ?」

「戻さなかった」

「なんで、」





「・・・徹くんが、いなくなるのが怖かった」

「徹くんが、『傷付けて』って言ったから、それを叶えなきゃって思って、そしたらヨリ戻したことにするのが都合がいいと思って、」

「・・・自分の都合で嘘ついてた。ごめんね」






ぽつりぽつり言葉を発して謝るさん。無視してくれたって全然構わなかったはずの俺が言った一言を律義に叶えようとしてくれてたんだなあ、と思うと頬っぺたが自然と緩む。そんなに前から俺のこと好きになってくれてたんだなあ、なんて。それに気付かなかった俺の言葉でさんを苦しめてしまったのかもしれないけど、それで全部チャラですよ。もう、苦しいことなんて何も無いです。俺があなたを幸せにします。
さんから身体を離して上半身を起こした。不安そうに俺を見上げるさんは、初めて出会った時から変わらずとてもきれいだ。そっと覆い被さって、さんのきれいな唇を塞ぐ。何度か小さくキスをして、さんの唇の柔らかさを充分に堪能してから、一際深い口づけを落とす。口内でゆるゆると絡む舌と混ざる唾液の温度が気持ちいい。





「・・・とおる、くん」

「もう、全部チャラにしてあげますから、気にしないで」

「、分かった」

「・・・さん、好きです」





くるまっていた毛布をはぎ取ってベッドの下に落とす。さっきの余韻はだいぶ遠のいて肌の火照りも引いてしまっているけれど、さんの身体にいくつもつけたキスマークは、まだきれいな赤色をしている。その一つ一つを指でなぞりながら、もう一度さんにキスをして、それから首筋、鎖骨、胸元と順番に唇を押しつける。胸のてっぺんに吸いついたら、声を噛み殺していたさんが吐息と一緒に震える声を漏らした。たった一音、それだけなのにぞくりと鳥肌が立って、心臓が高まって、下半身に血液が集まっていく。どうしてだろう。さっきもたくさん聞いたはずなのに、俺はもっともっとさんのきれいな声が聞きたい。
やわらかなさんの胸に顔を埋めて、てっぺんを舌で転がしたり甘噛みしたりして弄びながら、右手を滑らかな肌に添わせて下半身へと下げていく。脚の間はもう充分なほど潤っていて、そこでぬるりと指を濡らしてから、敏感な部分を刺激する。さんの身体がぴくりと反応して、一際甘い声が漏れる。かわいい。何度も何度も執拗にそこを刺激する俺の腕を細い指で掴んで、さんがお願いをする。その顔がかわいくてかわいくて、思わず少し意地悪してしまう。





「徹くん、ねえ、、もう我慢できない・・・っ」

「まだナカさわってないけど、いいんですか?さっきしたとはいえ、痛くない?」

「・・・っ意地悪しないで、」

「えー、でも俺は、さんに気持ち良くなってもらいたいんですけど」

「〜〜〜ッ!徹くん、大丈夫だから、ねえ・・・お願いだから、早く、」





そんな顔でそんなことをさんに言われたら、俺はもう従うしか出来ないや。意地悪したい気持ちよりも、さんのお願いを叶えてあげたくなってしまう。さっき使ったまま枕元に放り投げられていた残りの避妊具を手早くつけて、さんの中にゆっくりと挿入した。一枚隔てられているとはいえ、所詮0.1ミリ以下の薄いゴムだ。さんの体温とか、ちょっとザラついてる部分とか、そういうのちゃんと分かる。
最初はさんを抱きしめながらゆっくり動いていたけれど、さんが思わず声を出してしまうその一点を探り当ててから、腰を掴んでその一点を攻め立てる。さんは必死に口に手を押しあてて声を我慢しようとしているんだろうけど、全然我慢出来てない。俺が突き上げるたびにきれいな声がこぼれてくる。我慢なんて、しなくていいのに。俺はもっとあなたの声が聞きたいんだよ。





「っうう、とおる、くん!・・・ん、あ、やだぁそこ、だめ、」

「・・・っ嫌なの?じゃあ、やめますよ」

「え、あっ違う、あの、・・・やめちゃ、やだ、」

「じゃあ、嫌って言っちゃダメですよ、首振るのもダメです。首振ったら、お仕置きします」

「うえっ、だめ、待って、徹くんっ無理、あ、んっ・・・!」

「無理、もダメ」





さんの腰を掴んで少し浮かせてから、一番深いところまで腰を打ちつける。何度も何度も。さんは苦しそうに息をしながら、思わず口にしてしまいそうな言葉と首を振るのを精一杯耐えていたけれど、ついに我慢できなくなったのか、「とおる、く・・・もうや、だ、だめぇ、っお願い」なんて小さく首を振りながらきれいな声で言葉を紡ぐ。だめだよ、嫌って言っちゃダメって言ったのに、首振っちゃダメって言ったのに、あーあ。かわいくてかわいそうなさん、お仕置きしてあげる。
一度ぎりぎりまで引き抜いて、再度一番奥まで突き上げる。さんの前髪がそれに合わせて揺れて、もう我慢できなくなってしまった嬌声が、肌と肌がぶつかる音と空気を含んだ愛液が立てる水音と混ざって、部屋に響く。家に誰もいないことは分かっているから大丈夫、思う存分声を出しても聞いているのは俺だけだから。





「あっやあ、徹くん、だめえ許してっ・・・っん、やっあ、あっもう、」

「・・・っさん、大好き」

「徹くんっ、私も、好きっ・・・あ、やぁあっ、イっちゃう、」

「俺、も・・・っ!」





さんの体温に包まれたまま絶頂に達する。二回目だって言うのに、少し自分でも笑っちゃいそうなくらいだ。荒い息をするさんから離れて避妊具を処理する。それからベッドに戻ってさんを抱きしめようとしたら、さんとばっちり目が合ってしまった。とたんに恥ずかしさが襲いかかる。さんと両想いになれたからって、はしゃぎ過ぎたかなあとか。あの、えっとー、なんてしどろもどろになりながらさんの身体に腕を回す。腕の中でさんが、クスッと小さく笑い声を漏らしたのが聞こえた。





「ちょっ、なんで笑うんですか!」

「ごめ、悪気はないんだけど、」

さんひどいっ!」

「ごめん、ごめんね徹くん。徹くんがかわいくて、思わず」

「俺は男の子なんでかわいいって言われても嬉しくないです」

「ごめんってば、徹くん。お詫びに、私の名前呼んでもいいから」

「え・・・名前、って、あの、さ」

、でいいよ」

「・・・さん、」

「なあに、徹くん」





「・・・大好き、さん」

「私も徹くんが大好き」











しあわせなふたり