この気持ちは、誰にも知られちゃダメだと思う。この気持ちがあいつの枷になることも、そしてその枷から伸びる鎖に私自身が囚われてしまうことも、そんなのはどっちもごめんだから。それより私一人で抱え込んでる方がよっぽどマシ、それだけ。だから、誰にも気付かれないように、そっと視線だけ送る。
体育館の中で黄色い声援を浴びてなんだかきらめいてるあいつ、徹に。





幼なじみ。そう言えばまるで少女マンガみたいだしロマンチックだと、周りの友達はみんなそう言っていたけど、そんな簡単なもんじゃない。「それにさ、は読モやってるし美男美女でお揃いじゃん!」「及川くんと付き合うのがなら誰も文句言わないよね!」なんて、それはそれは無責任に言いたい放題だ。実際には、どこからかメールアドレスが知られて「不幸なメール」が届いたりもするし、もっと古典的な「体育館裏呼び出し」だって経験したこともある。どれも一時的なものばっかりだったけど、それでも私が自分の身を守るために「私は及川徹のことは好きでも何でもない、ただの幼なじみです」というセリフをまるで台本のようにすらすら言えるようになるには充分だった。ああ、そういえば体育館裏に呼び出されて今にも頬っぺたを叩かれそうだった時、徹がたまたま通りかかって声かけてきた時があったっけ。あの時は助かったような助からなかったような、とりあえず相手の女の子たちは全部徹が持って行ってくれたから良かった。
私はただの読者モデルだけど、演技の才能もあるのかもしれない。あのセリフのおかげで、次第に私が徹のファンの女の子に絡まれることも少なくなっていって、3年になった今ではむしろ恋愛相談まで受けるようになってしまったくらいだ。徹の好きな食べ物、好きな女の子のタイプ(と言っても来る者拒まず的なやつだけど)、そういったことを教えながら、たまに「何やってんだろ私」って思う時もあるんだけど、それでも、私が徹のことを何とも思っていないというのは周知の事実?だし、徹だってたぶん同じだから、これでいい。










ー、今帰るとこ?」

「・・・徹、部活は?」

「今日はオフ!俺行きたいとこあるんだよねー」

「ふーん、じゃあお疲れ」

「え!ちょっとちょっと、今の流れおかしくない!?」

「どこが?徹は寄り道して帰る、私はそのまま家に帰る、でしょ?」

「ちっがーーーう!!は俺と寄り道して家に帰る、なの!!」

「・・・はいはい」





校門前で珍しく徹に呼び止められて無理やり連れてこられたのは、徹がいつも行くスポーツショップだった。そういえばもうすぐ県予選大会だ。徹は真剣な顔をしてシューズを選んでいる。普段はあんなちゃらんぽらんな顔をしてるのに、相手校の分析をしたりシューズ選んだり、こういうときはものすごく真面目な顔。他の女の子とも徹はここに来たんだろうか?この表情を見せたんだろうか?横でそんなことをぐるぐる考えながら徹を見つめていたら、急に視線が合って、「何だよそんなに俺のこと見つめちゃって!俺に惚れ直しちゃった?」なんてことを言うから、とりあえず「うるさい」って言い返してやろうとしたとき、お店のおじさんが「あれ、及川くんが女の子と一緒なんて珍しい・・・ああ、ちゃんか!久しぶりだなあ、べっぴんになって。もうバレーはやってないんだっけ?」とタイミング良く声をかけてきたので、言いそびれてしまった。
中学生まで私はバレー部に所属していて、そのおかげである程度の身長を手に入れたと言っても間違いじゃないかもしれない。当時は私も徹と一緒によくこのスポーツショップに通っていたし、おじさんとも顔なじみだ。「ええ、今はもうやってないんです」「おかげでの二の腕は今やぷよぷよなんだよおじさん!」なんて他愛のない会話をしながら、徹はなんだかいつもよりさらにちゃらんぽらんな顔をしていたように思う。





、今日は付き合ってくれてありがとね」

「どういたしまして、久しぶりにおじさんとも会えたし」

「ふっふっふっ!そうだろそうだろ!」

「・・・じゃあ、また明日ね」

「あ、

「なに?」

「・・・・・・予選大会、応援来るよな?」

「・・・」

「来いよ」

「・・・分かった」





真面目な顔して徹がそう言うから、思わず頷いてしまった。私は、徹のこの表情に、弱い。










翌日学校に行ったら、友達数人に一気に周りを取り囲まれてしまった。何か重大なニュースでもあるのかと思ったら、どうやら話題の中心は私みたいで。「昨日及川くんと一緒にいたんだって?」「デートしてたらしいじゃん!!やっぱり付き合ってるの?」「バド部の後輩が見かけたって言ってるよー!」「私も見ちゃった!」とかなんとかかんとか。こそこそ歩いていたわけでもないし誰かに見られていても全然不思議じゃない、何より私が徹のことを何とも思ってない、徹も私のことを何とも思ってないっていうのはみんな知ってるはずなのに、未だにこんな噂になるなんて信じられない気分だ。まあ別に、こうなるのは初めてじゃないからいいんだけど。





「昨日は徹の新しいシューズ買うのに付き合わされただけで・・・」

「そうなんだ!でもさ、」

「・・・?」

「及川くんがを見てる顔がさ、本当に好きな人のこと見つめてるって感じで、」

「それ、なんかフィルターかけて見てるだけじゃ・・・」

が及川くんを見てる時も、そんな顔してたよ」

「っ、それ気のせいだって」

「あとね、及川くんのあんな表情今まで見たことないよ私たち」





気付いたら涙が零れおちていて、あわてて手の甲で拭う。なのに、拭っても拭っても涙が出てきて、今朝つけたばかりのマスカラも落ちてしまって、これはひどいパンダ目になってるはずだ。「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」とだけ言って、ハンカチで目を押さえながら教室を飛び出した、ら、何か大きいものにぶつかってしまった。もう、何なの。教室のドアは開いてたはずなのに。視線を上げてぶつかったものを確認したら、それは今一番会いたくないと思っていた徹本人だった。





「え!?ちょっ、ごめん!泣くほど痛かった?」

「あ、いやっ、これはその、違うっ」

「じゃあ、なんでそんな泣いてるのさ」

「別に、徹には関係ない」

「ふーん?ま、別にいいんだけどさ」

「・・・トイレ行きたいからどいてよ」

「やーだ」

「なっ、何言ってるの、授業始まっちゃうから、早くどいてってば!」

「ねえそこの君、1時間目借りるから上手く先生に言っておいてよ」

「はっ!?」





徹は近くにいた私のクラスメイトに勝手にそう頼むと、私の左手を掴んで廊下をトイレとは反対の方向に引っ張っていく。手を離してとか、徹のばかとか、何を言っても無視されて、体育館の裏に連れてこられてしまった。ここは、1年生のとき良く徹のファンの先輩に呼び出されたところ。叩かれそうになった時、徹が助けてくれたところ。あのあと一人で泣いてたら、徹が缶ジュース持って来てくれた、タオルを貸してくれた、ところ。





「俺さ、ずっと、隠してたことがあるんだよね。知りたい?」

「・・・別に、知りたくない」

「なんで?なんで知りたくないの」

「だって、もし知ったら、わたし・・・」

「なに?」

「・・・今までの我慢が、せっかく我慢してたのに、全部無駄にっ、」

「それじゃあダメなの?今まで我慢してた分幸せになれるとしてもダメ?」

「けど、だって、私・・・幸せに、なりたい」





、俺ずっとのこと好きだった。隠しててごめんね」





昔からずっと聞きたくて、でも知りたくなくて、我慢してた。知ったら今までの我慢が全部無駄になるような気がして、嘘をつき続けていた私が幸せになれるか分からなくて、怖くて自分の気持ちに蓋をしてたのに。その蓋は徹のひとことであっさり取り払われてしまって、徹と同じように隠していた気持ちが溢れてしまう。
私だって、ずっとずっと、徹のことが好きだった。










嘘吐きの告白
(やっと、素直になったね!)