あの日僕らが夕焼けの河原で想い描いた「美しい未来」は、それは綺麗な手で真っ白いキャンパスに様々な色の絵の具で描かれていた筈だったのだが、
  今僕らが朝焼けの荒れ地で目にした「美しい未来だったはずの未来」は、それは血に塗れた手で薄汚れたキャンパスにたった一色赤い絵の具だけで描
  かれていた。僕らが描いた未来の下絵とは随分違ってしまった。僕らの未来の予定にはこんなもの組み込まれていなかった。ああ、如何してだろう。
  一体、何時、何処で、何故、僕らは何を間違えた。






























  「さあ、殲滅を始めましょうか。紺碧の錬金術師さん?」

  「はい、キンブリーさん」



  そう言って、キンブリーさんに小さな紅い欠片を手渡された。その欠片は自分の着ている蒼い軍服と真反対の色で、自分の掌の上で毒々しい程やけ
  に鮮やかで今まに自分が流してきたイシュバール人の血みたいな色だと思ったらなんか吐き気がした。でも内心どこかでそんな自分を蔑む自分がい
  るのをあたしは気付いてたし沢山の人の命を奪ってきておいて何を今更それを憂いているんだろうと偽善ぶった自分があたしは嫌いだ。いつだった
  かキンブリーさんがあたしに言った。



  「人を殺して嫌な顔をするの気が知れないな。その手を血で汚したくないなら軍に入らなければ良かったのに」



  あたしが初めて錬金術で人を殺した日の夜のことだった。上層部からの命令に対して自分なんかに拒否権があるわけがなく目の前に現れたイシュバ
  ール人を殺して回った。頭の中は真っ白で、ううん血の色で真っ赤でそれ以外何も考えることは出来ずに命令通りキンブリーさんの言うとおりに錬
  成陣を発動させた。国家の為に、それが国民の為に、そうなると信じていた筈の幼い自分が、国民をこの手で殺していた。陣営に戻ったその晩、一
  人で外に出てしゃがみ込んだら着たままの軍服から火薬と血の匂いがして気分が悪くなって泣きそうになってたらキンブリーさんが来てそう言った。
  キンブリーさんの言葉はあの日の自分にはとても冷酷な言葉にしか思えなくて泣いたらキンブリーさんは「は莫迦な人だ」と言って隣に腰を下
  ろした。気付いたら朝で肩にキンブリーさんの軍服が掛かっていた。



  「、ボンヤリしてるとやられますよ。そんなに死にたいのなら・・・」

  「死にたくないです。だからあたしは闘うって決めたんです」

  「・・・意志を貫くその姿勢は評価しますよ。さあ、大地の振動が段々心地よくなってきた・・・」

  「人の悲鳴が聞こえる・・・いっぱい死んでる、人が・・・」



  スッとキンブリーさんが手を合わせると、眼下のイシュバールの町は一瞬にして焦土と化した。ああ、また沢山の人が死んでいった。大地の振動も
  人の悲鳴も今じゃ慣れてしまって寧ろ身体の奥の方から疼いてくる快感にも似た高揚感を煽るようになった。あたし、あの日から随分変わってしま
  ったのかもしれない。あの日の自分が今の自分を見たら多分落胆するどころじゃないだろうな。隣でキンブリーさんは快感を味わっている様で、あ
  たしも目を閉じて大地の振動と悲鳴の残響の余韻を味わうことにした。




















  「、おまえの将来の夢は何なんだ?」

  「あたしはファーストレディーになって大総統を陰から操って戦争のない未来を作るの」

  「言っておくが、私は亭主関白だからな。先に宣言するぞ」

  「ヒューズ、ロイがなんか気持ち悪いことを言ってくるんですけどどうしたらいいの」

  「無視しろ無視しろ、はオレのお嫁さんになるんだよな」

  「何だとヒューズ、おまえも大総統の座を狙っているのか!」

  「大総統閣下ー!!ここに造反を企んでる人たちがいまーす!!捕まえちゃってー!!」



  ああそうだった。あの日、士官学校を卒業したあの日。夕焼けの河原であたしとロイとヒューズと3人で並んで座って未来を話し合ったんだ。ロ
  イは今何してるだろうヒューズは今何してるだろう。きっとイシュバールには来ているはずだから。でもきっと今の自分を見たらあたしのこと誰
  だか分からなくなってるのかもしれない。だってあの日から随分変わってしまった。瞼の裏で昔の思い出が一瞬浮かんですぐ消えた。




















  担当地区のイシュバール人殲滅は何の滞りもなく予定期間よりも著しく早く終了した。あたしが何の躊躇いもなく沢山の人を殺して回ったから。
  キンブリーさんが快楽を求めて沢山の町を壊して回ったから。いつの間にか人を殺すことを恐れなくなった。陣営に戻って顔を洗った。水面に映
  った自分の目は生気を失って、人殺しの目だなと改めて思った。食事を取ろうと向きを変えたとき、後ろに立っている人物にぶつかってしまった。



  「痛っ・・・あ、どうもすいません」

  「いえこちらこそ、大丈夫ですか・・・って」

  「あたしは大丈夫です・・・って」

  「、じゃないか・・・」

  「ロイ、じゃないですか・・・」



  ぶつかったのは、あの日一緒に未来を語り合った仲間の一人ロイ・マスタングだった。ロイは同じ錬金術師で、同じ師匠についていて、何回か求
  婚されたり襲われかけたり実際襲われて美味しくいただかれてしまったりもした、友人と言うには親しすぎる恋人と言うには遠い存在の人間だっ
  た。仕官学校にいるときから美形だなとは思っていてそう思っていたからこそいただかれてしまっても文句は大して言わずにそれまで通りの付き
  合いを続けていくことが出来たのであるけれど、今ロイはもっと美形になった気がした。でもその顔は泥と血で汚れているし目は自分とそっくり
  で、人殺しの目だった。



  「、あんまりじろじろ見つめないでくれないか。まだ顔が汚れてるんだ」

  「あら汚れてても美形だなと思って見つめてたのに」

  「嬉しいことを言ってくれるな。このままキスでもしたいところだがそれじゃ女性の君に嫌な思いをさせかねないから顔を洗わせてくれないか」

  「だったら一生洗わなくてもいいのに、と言いたいところだけど血がついてるから洗った方がいいわ」



  ロイが横をすり抜けて前屈みになった。その時少し遠くにもう一つ懐かしい顔を見つけた。ロイが顔を洗い終わると同時に彼、マース・ヒューズ
  はこちらに駆け寄ってきた。笑顔は昔のまま変わらなく明るくてでも眼鏡の奥の細くなった瞳はやっぱりロイや自分と変わらない人殺しの目にな
  ってしまっていてなんだか無性に悲しくなってしまった。



  「、ロイ!元気にしてたか?」

  「お陰様で元気にしてたわ、ヒューズこそ元気だったの?」

  「俺はいつでも元気だよ!2人とも、なんか、変わったな」

  「・・・お前こそ、変わってしまったのはお互い様だろう」



  昔を懐かしむような今を悔やむような話をしてたらそこら辺に転がっていたイシュバールの武僧の死に損ないが、死に損ないなんて言葉昔なら絶
  対使わなくて生存者と言っていたはずなのに、襲いかかってきた。一瞬焦ったけれど、すぐにどこからか撃たれて死んだ。腕のいい射撃手が居る
  もんだと感心していたら、ヒューズがその人はまだ仕官学校生だと言った。「鷹の目」と呼ばれているらしい彼女は、食事を取ろうと火の周りに
  行くと、そこに座っていた。彼女は、師匠の、たった一人の娘だった。



  「お二人とも、覚えておいでですか・・・」

  「ええ・・・」

  「ああ・・・」



  ああ、彼女も人殺しの目になってしまっていた。哀しい世界だ。火を囲んで休息を取りながら、リザは少し昔の自分と同じようなことを呟いた。
  そしたら案の定一緒に座っていたキンブリーさんに冷酷な言葉をかけられて泣きそうになっていた。今の自分が今のキンブリーさんの言葉を聞い
  たとき、それは正論にしか聞こえなかったけれど、それは前に聞いたときよりひどく冷酷に聞こえたのはあたしが変わっていない証なんだろうか。
  だとしたらそれは喜ぶべきか否か、判断は難しいところにあるなとあたしは思った。




















  ロイの肩越しに景色を見るのは久しぶりだ。昔はロイの肩越しに見える景色は見慣れた天井だった。でも今は見知らぬ土地の暗い夜空だ。戦場の
  真ん中でロイはあたしを抱いた。時折自分の口から漏れる声が何だか殺される直前のイシュバールの女みたいに聞こえて、あたしは唇を強く噛ん
  で声を押し殺した。暗がりの中でロイの顔を見たら、不適に微笑んでいてそれは背筋が寒くなるくらい美しかった。それは町を壊し人を殺すとき
  のキンブリーさんの恍惚の表情に近いような気がして怖くなってあたしはギュッと目を閉じた。ロイはそれが気にくわないのか、あたしの中から
  抜き去ると噛み締めたままの唇にキスをした。まだ達していないのに包み込むべき物を失ったあたしの下半身はロイを求めて痙攣していた。まだ
  達していないのに包み込まれるべき物を失ったロイの下半身も同じように痙攣していた。



  「・・・どうして目を閉じるんだ」

  「・・・ロイが、怖いからよ」

  「そうか、私にもの恍惚の表情が少し怖く見えるよ」

  「・・・」

  「・・・」

  「ロ、イ・・・やめないで」

  「怖くないのかい?」

  「・・・今のあたしにはロイが最後まで抱いてくれないことの方が怖いの」



  ロイは微笑んで再びあたしの中に進入した。ああ、こんな快感は昔なら抱かれなければ得ることは出来なかったのに今なら人を殺せばそれに似た
  快感を得ることが出来るようになってしまったなんてあたしは本当にどうかしてしまった。さっき、ヒューズにそう言ったら「はついていく
  人を間違えたな。まあこの戦争が終わったらついて行く人を替えりゃいいだけの話さ」と頭を撫でられた。でも、根本的な部分でついて行く人を
  間違えてるような気がしてあたしは不安だよ。このまま世界がなくなるような気がする。



  「・・・戦争が終わったら・・・」

  「あ、ひぁっ・・っロ、イぃ・・!」

  「・・・、愛してる」

  「・・・ロイぃ、あッ・・・!」



  達する直前にロイが囁いた言葉がやけに耳に残って離れなかった。




















  イシュバールは滅びた。最後のイシュバール人を殺したのはロイだと誰かから聞いた。ロイは、この戦争の英雄になったわけだ。多分ロイはそんな
  風には微塵にも思っていないんだろうけど、沢山人を殺してもロイは英雄あたしは何の称号も与えられることはなくただの人殺しだ。ぼんやり酒を
  片手に立っていたら後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこにはロイとヒューズが立っていた。



  「、私はこの国のてっぺんに立つことにした」

  「したって今更何を・・・昔からそう言ってたでしょう」

  「ロイがな、お前さんにもついてきてもらいたいんだとよ」

  「、私がてっぺんに立ったときは君をファーストレディーとして迎えるよ」

  「・・・ロイ、楽しみにしてる。言っとくけど亭主関白にはさせないんだからね」



















  あの日僕らが夕焼けの河原で想い描いた「美しい未来」は、それは綺麗な手で真っ白いキャンパスに様々な色の絵の具で描かれていた筈だったのだが、
  今僕らが朝焼けの荒れ地で目にした「美しい未来だったはずの未来」は、それは血に塗れた手で薄汚れたキャンパスにたった一色赤い絵の具だけで描
  かれていた。僕らが描いた未来の下絵とは随分違ってしまった。僕らの未来の予定にはこんなもの組み込まれていなかった。ああ、如何してだろう。
  一体、何時、何処で、何故、僕らは何を間違えた。



  だけどまだ大丈夫。まだ今の僕らなら「美しい未来だったはずの未来」を「美しい未来」に描き替えられる筈だという自信はどこから出てくるのかは
  知らないけど取り敢えずどこからか湧いてくるから大丈夫だ。



  そう言って笑った。










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    15巻触発突発的作品。クラスメイトから借りて読んだだけなんで
    設定とかめちゃくちゃですが悪しからず。
    キンブリーが出張ってすいません。これでもロイ夢です。