「スガはさー、」何とも間延びした声で向かい合って座るが俺の名前を呼ぶ。教室には俺としかいなくて、俺とは日直の最大かつ最も面倒な仕事である日誌に書く内容を探して今日一日の出来事を振り返っているところだった。その話題が唐突に遮られて俺の名前を呼ぶもんだから、が何を言い出すのか分からなくて、とりあえずに向かって背筋を正す。





「ちょ、スガ何身構えてんの」

「いや、に何言われるんだろうと思って」

「大したことじゃないべー」

「そうなの?」





せっかく正した姿勢を崩しながらにそう聞き返すと、「大したことじゃない」って言いながらニコニコしてた表情が一瞬険しくなって、「ん、いや、うーん、どうだろ大したことかも、しれなくもないかも?」なんてぶつぶつ言っている。いつもニコニコしてて、特にお昼ごはんの時間なんかはもう頬っぺた落ちちゃうんじゃないかってくらいに幸せそうな顔をしてるが、結構まじめな顔になってみたり、困ったみたいな顔になってみたり、本当に見てて飽きないなあなんて思いつつ、の百面相を眺めてたら、と視線がぶつかった。途端には慌てて視線をずらして、持っていたシャーペンをくるくる回し始める。





「で、は何を言いかけたんだっけ?」

「んーっと、いやーそのーあのですねー・・・」

「なになに?」

「・・・言わなきゃ、だめ?やっぱやーめた、とかナシ?」

「んー、ナシだな!だって気になるべ」

「ですよねー」





はくるくるシャーペンを回していて、俺はが一体何を言い出すんだろうと予想も出来ないでいて、教室はが回すシャーペンの音と壁に掛けられた時計の針の音だけが響いている。くるくる、かちかち。何だろう、そんなに言いにくいことなんだろうか。例えば、お昼ごはんに食べたカップ焼きそばの青のりが歯にくっついてますよ、とか。もしそうだったとしたらそれはものすごく恥ずかしくて穴があったら入りたいくらいだ。あ、それとも恋愛相談だったりするのか。前もクラスの女子に「澤村って彼女いるのかなあ」って聞かれたことある。もしそうだったとしたら、それは、ものすごく、悲しくて。
カシャンと音を立てて、のシャーペンが手から離れた。





「・・・好きな人、いるの?」

「え?」

「っだからー、スガは好きな人いるのかって聞いてるの!」

「・・・お、俺?澤村じゃなくて?俺なの?」

「はいそうですスガです」

「俺、は・・・えっと、」





やっと口を開いたは頬っぺたを真っ赤に染めて、落ちたシャーペンを握りしめて、日誌の隅っこの方を見つめている。その手は小刻みに震えていて、伏せがちの目はなんだか今にも泣き出しそうだ。そういう俺も、のと違ってシンプルで可愛げのないシャーペンを握る右手は真夏でもないのにじんわりと汗ばんでいて、さっきまでそんなことなかったのに頬っぺたも、なんとなく耳まで熱くなってしまった気がする。なんだか喉が渇いて、上手く声が出せない。





「・・・俺は、いる。好きな人、いるよ」

「うえっ、あっ、そう!そうなんだ!へー!!ほーう青春ですな!!うん!!」

は?」

「わ、わわわわわ私!?!?」

「うん。は、好きな人いないの?」

「・・・えっと、その、・・・あの、いる・・・です、はい」

「そーなんだ」





そこまで言って俯いたままのの顔を覗き込んだら、の頬っぺたはさっきよりも真っ赤で、でも泣き出しそうな目をしてて。ああ、もう。ずっとずっと思ってたことだけど、やっぱりって、かわいい。ニコニコしてるのも、困ってるのも、まじめな時も、泣きそうなのも、全部全部かわいくて、やっぱり俺は、のこと大好きだ。
伏せられていたの視線が動いて、俺の視線とぶつかる。





「俺さ、のこと好きなんだべ。知ってた?」











檸檬なお年頃
(思わずびっくりしちゃうでしょ)


「私も、スガのこと、好き」