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明日も朝から練習だからと布団に入ったのは良いものの、どうにも目が冴えてなかなか寝付けない。枕元の時計の針はもう少しで日付が変わることを示している。もぞもぞと寝返りを打って収まりの良い体勢を探しても、どうにもそわそわとしてしまう。まるで、遠足前日の小学生みたいだ。もう高校3年生だっていうのに。自分で自分がおかしくなって口元が緩む。もう一度寝返りを打ったところで、テーブルの上で充電中だった携帯がチカチカと光ってメッセージの受信を告げた。もしかして、と期待を抱いてベッドから落ちるようにして這い出て画面を開けば、期待通り、それはからのメッセージだった。 『孝支、まだ起きてる?』 「起きてるよーどした?」 『えっと、電話してもいい?』 「うん」 そんな短いやりとりのあと、すぐに手の中の携帯が震えてからの着信を知らせる。通話ボタンをタップして耳に当てれば、すぐそこから遠慮がちに紡ぎだされるの声が鼓膜を揺らす。 『もしもし、ごめんねこんな時間に』 「別に大丈夫だよ、なんか寝られなくてさ、まだ起きてたから」 『・・・ワクワクして、?』 「ん、そうかも。多分そうだな。ソワソワして全然寝られない」 『もう、明日も朝練なんでしょ。・・・あと、5分だね』 「だな!さっきからずっと時計見てる」 クスクスと小さく笑う声が心地良い。ずっとこうして近くでの声が聞けたならきっとすぐに寝付けるだろうし良い夢が見られるんだろうなあなんて考えながら、と他愛もない話をする。そんなことをしていれば5分なんて本当にあっという間で、気付けばあと数十秒で日付が変わる瞬間だ。が小さな声で、『じゅう、きゅう、はち、・・・』とカウントダウンを始めたから、そっと黙っての声を聞く。いつだって聞いている声だけど、電話越しの声はちょっとだけ違って、何よりこんなに耳の近くでの声を聞くことなんて滅多にないから、どうにかして全部を記憶しておこうといつも必死になってしまう。にはもちろん内緒だけど。 『さん、に、いち、ぜろ・・・・・・孝支、誕生日おめでとう!』 「ありがとな、なんかこういうの初めてだからすげー嬉しい」 『そわそわして寝られなくなっちゃうくらいだもんね?でも、私もすごくドキドキした、っていうかしてる』 「なんでがドキドキすんの」 『え、だって・・・彼氏のお誕生日お祝いするって、は、初めてだし・・・!』 「ん、知ってるけど!・・・・・・俺もだよ。だからめちゃくちゃ嬉しい」 『孝支、あのね、』 「うん、どした?」 『・・・大好き、』 「おう、よーく知ってる」 『・・・じゃ、じゃあまた明日、学校でね!朝練あるんだから、夜更かししちゃダメだよ!!』 「はいはい。あ、部活の後、楽しみにしてるな」 『うん、じゃあおやすみ孝支』 「おやすみ、」 は照れくさくなったのかそう言って電話を切ろうとするのに、俺は名残惜しくて、もっとの声が聞きたくて、通話終了ボタンをタップ出来ずにいたら、俺が電話を切るのを待っているのか、も通話終了ボタンを押さずにいるみたいで、耳元からはの小さな吐息が聞こえてくる。不思議な沈黙が二人の間に流れて、それからほぼ同時に吹き出した。 「ちょっ、ってば、」 『孝支こそっ!もう、なんで電話切らないの』 「が切ればいいべや?」 『えっ、だって、でも・・・』 「・・・・・・もしかして、もっと俺と話したい?」 『・・・うん、・・・・・・でも孝支朝練あるし、』 「大丈夫だよ。それに、・・・ほんとは俺ももっとと、話してたい」 俺だって男だし、基本的にはいつだっての前じゃかっこつけてたいと思ってる。だけど、今日くらい、我儘言ってもいいのかなあって思うんだ。誕生日の今日くらい。 必死になって覚えようとしていたの優しい声が、スピーカーを通って俺の鼓膜を揺らして、ぎゅっとまるで心臓を鷲掴みにされるみたいだ。こんなに声は近いのになあ。早く、朝が来てに会いたいと思う。朝練と、授業と、部活が終われば、の一番近くに行けるって分かってても、今すぐ会いたくなるのはなんでだろう。早く会いたい、こんなにものことを考える夜は初めてだ。今すぐ会えないならせめて、その優しい声で俺の心臓を掴んだままでいてくれる? |