|
『っちー、オレ明日仕事で学校行けないんスよー(>ω<;)プリント代わりに貰っといてくれないっスか??』 短いメロディーの後、手元に置いておいたスマホの画面に緑色の通知が浮かび上がる。黄瀬くんからだ。友達同士の何気ない会話。それだけでも私の心はおそろしくときめいてしまう。すぐさまアプリを起動して返信する。「うん」って肯定の返事だけじゃなくて、少しでも黄瀬くんと話してたいなって思うから、ちょっとした疑問文を最後に付け加えて。きっとこの方法は、手紙の頃からメールの時代を越えて、恋する女の子なら誰しも使ってきた常套手段なんだと思う。だけど効果は抜群なのだから、昔の人はすごいな。ありがとう、メールの最後は疑問文作戦の発案者さん! 「りょーかい!(^^*)明日は雑誌のお仕事?」 『明日はちょっと違う仕事っスよ!気になる?笑』 「ちょっと気になるかも!笑」 『ふっふっふっ!(`▽´*)でも残念ながらまだ内緒なんスよー(;_;)』 「そうなんだね(´・ω・`)じゃあ大丈夫になったら教えてよー」 『おっけーっス☆そいえば数学って宿題あった??』 こんなふうにいつまでもメッセージのやり取りが続けばいいのにな、って思う。連絡事項とかそんなの関係なく、今日あったこととか、晩ごはんのこととか、何でもないこと、もっともっと黄瀬くんと話せるようになればいいのに。やっぱり、恋する女の子はみんな同じようなことを思うんだろうか。私だけが、わがままなわけじゃないよね、きっと。 私は、黄瀬くんが好きだ。 ***** 黄瀬くんが誰にも言えないお仕事をしてから少し経った後、朝のテレビの芸能ニュースで黄瀬くんが映っているのを朝ごはんを食べながら見ていた。どうやら、今大人気のバンドの新曲のミュージックビデオに出演しているということで、黄瀬くんが誰にも言えなかった理由はここにあったみたいだ。切ないラブソングに合わせて、黄瀬くんが今まで見たこと無いような表情をしている。こっそり黄瀬くんの出ている男性向けファッション雑誌を買ったこともあるし、もちろん黄瀬くんが出る女性向けファッション雑誌は必ず買ってるけれど、どれも雑誌の中の黄瀬くんはかっこよくてきれいな笑顔をしている。そして、学校で見る黄瀬くんも楽しそうに笑っていて、時たま真剣に授業を聞いたり居眠りしてたり、こんなにも切ないような、泣きそうな、まるで誰かのことを好きで好きで仕方ないような表情をしている黄瀬くんは見たことが無い。黄瀬くん、誰かのことを想って演技してるのかな。 不意に、スマホがお馴染みのメロディでメッセージ受信を知らせる。 『っちおはよーっス!テレビ見た??』 「今見てるよ!黄瀬くんのこの前のお仕事ってこれだったんだね!すごい!!』 『ありがとっス!(^ω^*)PV、全部流れないッスよね?』 「そうみたいだねー(>_<)黄瀬くんかっこいいから全部見てみたいかも!笑」 『ほんと?ほんとに全部見たい??』 「うん!見てみたい(*σωσ)」 『じゃあこれ!特別にお願いして、Youtubeの公式で先行公開されるURLもらったから見てほしい』 「ありがとう!」 『出来たら今、見てほしいっス』 「分かったー(*・▽・)」 黄瀬くんから送られてきたURLに飛ぶと、さっきまでテレビで流れていたメロディーがゆっくりと、最初から流れ始める。大好きな人に、想いを伝えたくて伝えたくて、だけど勇気が無くて口に出せない主人公が、たくさんの人に支えられて応援されて元気づけられて勇気をもらって、最後の最後に女の子のもとに向かう、そんなストーリー。 まるで私みたいだと思う。大好きな黄瀬くんに想いを伝えたいのに、もっと仲良くなりたいのに、私は今の友達関係が壊れちゃうのが怖くて何も言えないでいる。きっと、この歌を聴いて、このミュージックビデオを見て、一体何人の女の子が共感して涙を流すんだろう。 お馴染みの短いメロディーが再度メッセージの受信を告げる。 『っち、外出てきて』 「え?」 まさか、そんなわけないよね。だけど心臓がまるで100メートルを全力疾走した後みたいにドキドキしてうるさい。食べかけの食パンをお皿に放り投げるようにして置いて、お母さんが嗜める声も無視して、玄関の扉を開けたら、黄瀬くんが、さっきミュージックビデオの中で見たばかりの表情で立っていた。誰かのことを好きで好きで仕方ないような、そんな顔してるよ、黄瀬くん。 「っち、俺やっと言えるっッス。・・・俺、っちのこと、ずっと前から好きでした」 |