もしこの関係を打破することが出来るなら、そんな夢みたいな方法があるのなら、例えどんな代償を支払ってでもそれを実行出来るだけの力が欲しい。どれだけ、そう願ったことだろう。ずっと、変わらないでいることが、それが良いことだと思ってきたけど、大人になるにつれて段々と我儘になる欲求を抑える術を、俺は知らない。
気付いたらいつでも隣にいる、。だけど恋人同士なんてそんな関係とは程遠くて、家が斜向かいだっていう腐れ縁みたいな幼なじみ。時に煩わしいなんて思ったこともあるけど、いつだって仲が良くて、このまま仲良くいられたらと思っていた。それなのに、それ以外の感情を引き出してきたのは他の誰でもない、だった。





「涼太ー、私彼氏出来た」

「はぁっ!?ままっままマジっすか!?」

「うん、マジだよ。何、そんなびっくりすること?」

「え、あっいや、・・・俺というイケメンがいながら、みたいな」

「・・・だって涼太と付き合ったら絶対苦労しそう、女の子って怖いんだから」





俺と一番仲が良いのはと一番仲が良いのは俺。誰にも邪魔されない、俺と2人だけの関係のはずだった。それなのに、いとも簡単に他人がの一番を攫っていく。中学生になっても、高校生になっても、大学生になっても、の一番はなかなか俺のところに戻ってこない。
こんなことなら、仲良くいられたらなんて生ぬるいことを願わずに、を俺のものにしておけば良かったんだ。だけど今更強固に作られた「幼なじみ」の関係を崩す力が、俺にはない。











そんな力が欲しくて、だけどどうにも出来ない、そんなもどかしい想いだけを抱え続けて、いつの間にか俺とは大人になった。一足先に俺が誕生日を迎えて、そして遅れること数か月、も誕生日を迎えて、正々堂々とお酒を飲むことを許された俺たちは、特に特別な意味なんてまるで無いように振る舞って、二人でお酒を飲むことにした。の誕生日当日はどうやら友人たちとの先約があったようで、日付はの誕生日よりも少しあとだった。パパラッチに捕まるのも面倒で、所属事務所の先輩から教えてもらった個室ダイニングバーを予約して、の誕生日をお祝いする名目でグラスを交わす。





、誕生日おめでとう」

「ありがと涼太!こんな素敵なお店知ってるなんて、さっすが人気モデル」

「せっかくの誕生日なんスから、当然っスよ!」





誕生日なんて、おめでとうなんて、本当は今日をきっかけにもどかしい関係を終わらせるための言い訳にしか過ぎないのに、それを笑顔で取り繕って口に出来るところは日頃の芸能活動に感謝してもいいかもしれない。ずるいって、情けないって分かってる。だけどこうでもしないと、表面上ではどれだけかっこよくて頼りになる俺を演じることが出来ていても本当は意気地が無くてぐずぐず弱気な俺は、このもどかしい関係を終わらせることが出来ない。
ねえ、。ずっと言いたかったことがあるんスよ。アルコールが回ってほんのり頬っぺたが赤いは、そんな俺の気持ちなんて知らないで楽しそうにお酒を飲んでるけど、そんな呑気に笑ってられるのもあと少し。もどかしい仲良しな関係は、もう終わりにしたいんだ。





「・・・ねえ

「なあに涼太、急にそんなまじめな顔して!イケメンだけど!」

「真面目な話があるんスよ」

「・・・ん、私に?」

「そう、に」

「えーっと、どうぞ話してください?」





本当に、言ってもいいんだろうか。後悔しないだろうか。そんな考えが一瞬脳裏に浮かんですぐ消える。
今言わなくてどうするんだ。後悔なんて、これまで死ぬほどしてきた。今日、たった一つのこの言葉を言うためだけに俺はいるんだから。





「俺、のことずっと好きだったんスよ」





さっきまで聞こえていたはずの、店内のBGMも他の客の声も、が楽しそうに笑っていた声も、まるで聞こえない。時間が止まったかのように、俺との間に静寂が訪れる。長いようで短い一瞬のあと、が手にしていたフォークをカチャリと皿に置いて、困ったような何とも言えない表情で、俺の方を見やった。
震えるその唇から零れるのは、一体どんな言葉だろう。身構えていた俺の鼓膜に届いたのは、想像していなかった一言だった。





「・・・・・・ずるい」

「え?」

「・・・だから、ずるいって言ったの。涼太ずるい」

「えっと、いや、何がっスか・・・?」

「だって、私がずっと我慢してたのに、こんな雰囲気あるところでサラリと言っちゃうんだもん・・・イケメンすぎてずるい」

「な、ちょっ、それって」





「私も、涼太のこと本当はずっとずっと好きだった」





そっか、俺だけじゃなかったんだ。
お互い泣いてるんだか笑ってるんだかよく分からない顔でテーブルの上でキュッと手を握り合う。個室で良かったって、情けないくらいにかっこ悪い笑顔でそう言う俺にどうか呆れないで、やっとの一番になれたからずっと一番でいさせて、ってそう思うんだ。










他の誰でもない

ふたりになろうよ


Alcolici」様に提出。素敵な企画をありがとうございました。

title by 小惑星宇宙