『風邪引いた』





たった5文字のメール、されど5文字のメール。だって、雲雀くんが風邪を引くなんて、普段の様子からはとても想像できない。雲雀くんはいつもかっこよくスーツを着こなしてお仕事をしていて、並盛の平和を守るために尽力をしているのだ。見た目はちょっと怖いけど本当はすごく優しくて、強い。そんな雲雀くんが風邪を引いてしまうなんて、にわかには信じがたいと思う。余程お仕事が忙しくて寝不足で疲れてたのかな。とりあえず今日は残業しないで、雲雀くんのためにポカリと葱を買って帰ることにしよう。晩ごはんはお粥の方がいいだろうか。雲雀くん、私が家に帰るまできちんと大人しく寝ててくれるだろうか。パソコンのキーボードを打つ手が自然と止まる。ダメだ、集中して早く終わらせなきゃ。





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普段以上のスピードで仕事を片付けて、近所のスーパーでポカリと葱とそれからみかんゼリーを買って、大急ぎで雲雀くんの待つ家に帰る。いつも帰宅するときは自然と早足になるけれど、今日はもっと早足だ。早足どころか走る寸前。今だけ私は競歩選手で、たぶんオリンピック出れるんじゃないだろうか。雲雀くん、大丈夫かな。病院行けたかな。ちゃんとお薬飲んでるかな。雲雀くんはああ見えて案外子供みたいなところがある。いつもかっこよくて強くてすまし顔している雲雀くんが、私の前でだけ「晩ごはんはハンバーグがいい」だとか「この薬は苦くて嫌い」だとかそういうことを言うの、とてもとても愛おしく思う。






「雲雀くんただいま!」

「・・・ああ、。おかえり」

「あ!ちゃんとベッドで寝てなきゃダメだよって言ったのに!」

「ん、が帰ってくるの待ってたんだよ」

「もう、ほらソファで毛布にくるまってないで、ベッド行こう」

「はいはい分かったよ」





熱がまだ高いのか、雲雀くんの頬っぺたは真っ赤なリンゴみたいで、心なしか目もうるうるしてる気がする。そんな雲雀くんがまるでミノムシみたいに毛布にくるまっているのは不謹慎だけどかなり可愛くて面白い。だけどそんなことして風邪が悪化しちゃ元も子もないので、自分の荷物を片付けるついでに雲雀くんと一緒にベッドルームに向かう。毛布にくるまったまま歩く雲雀くんも面白い。ムービー撮って永久保存したい。小さい欲望が芽生えるけど、やめておこう。風邪が治ったら絶対「消せ」って言われるし。
雲雀くんがもぞもぞとベッドに入るのを確認して、買ってきた食材を冷蔵庫に片づけるためにリビングに戻ろうとしたら、小さな声で雲雀くんが「、」と私の名前を呼んだ。ベッドに近付いて、雲雀くんの顔を覗き込んだら「近すぎ、風邪うつるよ」と怒られてしまった。





「どうしたの雲雀くん」

「・・・風邪薬が、苦くて嫌なんだ」

「うん、飲みやすいようにゼリー買ってきたよ」

「ポカリも?」

「うん、あと葱も買ってきた」

「・・・僕は、」

「僕は?」

「別に一人でも生きていけるって、そう思ってたんだ」

「うん、知ってるよ。雲雀くん強いもんね」

「そう思ってたのに、こうしてがいると甘えてしまう」

「私は甘えん坊な雲雀くんも好きだよ」

「・・・僕は、いつの間にか弱くなったみたいだ」

「大丈夫だよ。私はどんな雲雀くんも好きだよ。弱くても嫌いにならないよ」

「そう・・・それなら、いいんだ」





そう呟くように言って、雲雀くんは目を閉じてしまった。どうやら寝てしまったみたいだ。風邪引いて、弱気になっちゃったのかな。子供のように私の指を握っていた雲雀くんの手を解いて、もう一度雲雀くんの手を今度は両手で包み込む。両手でやっと包み込めるくらいの雲雀くんの右手。並盛の平和を守る、強くて大きい右手。私の手は小さくて、もしかしたら足りないかもしれないけど、それでも私は雲雀くんのことをずっと好きで守っていきたいなあ、って思ってるんだよ。雲雀くんが私のことを好きで守ってくれるのと同じように、ずっと一緒にいたいなあって思うんだよ。だから、雲雀くんが弱くなっちゃっても大丈夫。私は雲雀くんと一緒にいられるなら、











何もこわくない
(そして幸せ)



社会人設定。風邪を引いて弱り切った雲雀を看病する話。