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ふと、目が覚めた。枕元に置いておいた携帯の画面を確認すると、時刻は朝9時を示している。起きようか少し迷ったところで、背後から脇の下を通って私のお腹あたりに回された鉄朗の腕に力が込められて、私の後頭部にすりすりと鉄朗の顔が寄せられた。「・・・、もうちょっと」と欠伸を噛み殺しながらむにゃむにゃ喋る鉄朗に誘惑されて、手にした携帯を戻してお腹の前の鉄朗の手を握る。確かに、今日はバレーボールサークルの練習の無い土曜日だ。昨日は高校時代から大学でもチームメイトの研磨や虎ちゃんと遅くまで居酒屋ではしゃいでたわけだし、少しくらいお布団でごろごろしてもバチは当たらないはずだ。何より、こうして鉄朗と二人きりでのんびり出来る休日は久しぶりだ。鉄朗の指を弄びながら、思いついたことを喋る。 「てつろー、どこか出掛けようよ」 「おー映画行くか、なんだっけ、アナと雪の女王」 「あ、それずっと見たいと思ってたんだ」 「知ってる。れりごーれりごー歌ってたろ」 「あれ、ばれてた?」 「風呂で歌うのは良いけど、声でかすぎ」 「だってーあの歌好きなんだもん」 「映画館では歌うなよ」 「久しぶりのデートだからはしゃぎ過ぎないよう気をつける」 「そっちかよ」 大学3年生になり付き合い始めて5年目を迎えたことをきっかけに、「まあ新婚生活の練習だと思えばいーんじゃん」なんていうプロポーズもどきのセリフを受けて大学近くのマンションで同棲を始めた鉄朗と私の部屋には、平日週末問わず、何故か週の半分ほど元音駒メンバーが訪れる。鉄朗がそれだけ人望が厚いのだと言えばそれはとても喜ばしいことで、確かに最初はみんなで宅飲みとかたこ焼きパーティーとかしたけど、なぜか大学の違う犬やリエーフ、やっくんまで集まってスマブラ大会やらモンハンやらポケモンやらゲーム三昧なのだ。君たち他に友達いないのかと、小一時間ほど問い詰めたくなる。特に金曜日の夜は危険だ。酔っ払ったあいつらが来てそのまま泊まって土曜日一日潰される可能性が高い。それが今日は無い、久しぶりに鉄朗と二人きり。もちろんみんながいて私も一緒にゲームするしお酒も飲むし楽しいけど、鉄朗を独り占めしたい気持ちももちろんある。 そんな小さな幸せを心の中で噛みしめていたら、鉄朗が何か察したのか首筋に小さくキスを落としてくる。 「ー、」 「・・・ダメだよ、今はダメ。ダメ、絶対。ノーセンキュー」 「何も言ってねーけど」 「言わなくても分かる。でもダメ。眠くなっちゃってデートできなくなるから」 「残念だなー」 「・・・夜、なら」 にやりと鉄朗が笑って、もう一度強く私を抱きしめる。本当に、今日は幸せな休日だ。 そう、幸せな休日になるはずだった。鉄朗と映画を観て、雑誌に載ってたカフェに行って、ショッピングして、お家に帰ってから見るDVDを借りて、マンションまで帰ってきたら、なぜかマンションの前に見慣れた顔がいくつもある。研磨、やっくん、虎ちゃん、犬、リエーフ、いつものメンバー全員集合だ。なんでだ。せっかく二人きりの幸せな休日の夜を過ごすはずが、このメンバーが来たということはお酒を飲みつつオールでゲーム大会だろう。借りてきたDVD、見る暇なんて無いじゃないか。でも来てしまったのは仕方ないし、そのまま追い返すのもなんだか悪い。そう思って、声をかけようとした瞬間、私より先に鉄朗が口を開いた。 「お前ら何してんだこんなとこで」 「あ、クロ」 「「「「飲み!ゲーム!!」」」」 「悪いけど今日は帰れ」 「えっ、鉄朗そんな、せっかくみんな来てるのに・・・」 「はちょっと黙ってなさい」 「「「「えー!!!!飲み!スマブラ!!モンハン!!!ポケモン!!!!」」」」 「ダメ、帰れ、今日はお前らは家に上げない」 「・・・てつろ、」 「、今朝自分が言ったこと忘れたか?」 「あっ・・・お、覚えてる」 「ならいい。とりあえずお前ら今日は絶対家上げないからな。研磨ん家でも行けよー。じゃ、帰ろう」 「え、あっ、うん・・・!あの、みんなまた今度、ね!」 「「「「「・・・はい」」」」」 少し強引に私の手を引っ張って鉄朗はマンションの中に入っていく。みんなには少し悪いこと、しちゃったかもしれない。でも、鉄朗が、私のことを優先してくれて、今朝の話を覚えていてくれたことが、本当はとても嬉しい。階段を登ってガチャガチャと鍵を開けて玄関に入った瞬間、鉄朗に強く強く抱き締められる。背の高い鉄朗に抱き締められると、20代女子の平均身長より少し高いぐらいの私は、文字通りすっぽりと鉄朗の腕の中に収まってしまう。つむじにかかる鉄朗の息がくすぐったい。 「、」 「なーに鉄朗」 「・・・俺、結構ガマンしてたんだけど」 「ん、私も」 「俺のがガマンしてたぞ、朝からだ」 「私のがガマンしてたよ、昨日の夜からだもん」 「負けた」 「勝った」 「じゃ、いただきまーす」 「・・・いただかれまーす」 |