「名取さんって、何を考えてるのかよく分からないですよね」





文机に向かう名取さんの背中に向かってそう言ったら、何か書いていた筆を置いて名取さんが振り向いた。眼鏡の向こうで、言っちゃ悪いけど胡散臭い程に名取さんの目が笑っている。何なんだこの人、他にこんなに笑顔が胡散臭い人っているのかなあ。こういう時、名取さんが口にするのはやっぱり胡散臭い台詞だ。





「その方が魅力的だろ?」

「・・・あの名取さん、私そんな意味で言ったんじゃないって分かってます?日本語通じてます?」

「ひどいなあ、ちゃんと分かってるさ。は僕のこと好きって」

「そんなこと言ってな、」





名取さんが無駄にきらめきながらふざけたことを口にするので言い返してやろうとしたら、名取さんは静かに眼鏡を外して文机に置いた。その仕草に不覚にも心臓が早くなる。もう、ほんと何なのこの人。俳優だとか妖祓いだとか色々ほんとに胡散臭いんだけど、でもそれなのに惹かれてしまうから癪だ。新手の妖気みたいなオーラを放ってるって、夏目くん家のニャンコは言ったらしい。確かに。





「仕事が色々忙しくてね」

「売れっ子俳優ですもんね、名取さん。誰を乗せて海に行くつもりですか」

「海?・・・ああ、あのCM」

「『帰りたくない』なんて今時言う人いません」

「・・・なんだ、ヤキモチ焼いてるのかは」

「お餅なんて焼いてません」





名取さんは声を立てずに笑った。何がそんなに可笑しいんだか私にはよく分かんない。名取さんの考えてることはほんとに謎だ。何を考えてるんですか。何を思ってるんですか。それを全部知りたいとは思わないし、もしかしたら胡散臭いことだらけで知らなきゃ良かったと思うかもしれないけど、それでも分かりたいんです。少しだけでも、名取さんに近付きたいと思ってるのに。
名取さんは漸く笑い終えると、畳に突っ伏した私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。顔を上げたら、「はは、畳の跡ついてる」と言って私の頬っぺたに大きな手のひらが触れる。





「考えてることなんて一つしかない。いつものことしか考えてないよ。相手役の女優さんには悪いけど、ね」











君がぬくもりの理由になっていく
(だから君のことしか考えられないよ)