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平日の学校帰り、休日のシニアの練習帰り、いつも同じ時間帯に俺の家の2軒向こうの家から零れるピアノの音と歌声。俺が中学生になった数ヶ月あとに、ヨーロッパから引っ越してきた、つまり帰国子女の、。純日本人、だけど顔立ちも振る舞いもどことなく外国人みたいで、見たこと無いけどこーゆーのをフランス人形みたいだと言うんだろうと思った。もちろん学区が一緒なので中学校が一緒で、クラスも一緒だった。いつも音楽室でピアノを弾きながら歌を歌っていた。今まで聞いたことのない綺麗な声。いつだったかピアノを弾くを見に放課後音楽室に行ったらそこにの姿はなくて、内心残念でイライラしながら家に帰ったら、2軒向こうからいつものようにピアノの音と歌声が聞こえた。走っての家に行って、初めてと話をした。「なあ、友達出来たか?」「・・・ううん、私人と喋るのとか苦手で。私、歌うことしかできないの」「そっか・・・でも、俺はの友達になりたい」「ありがとう阿部くん」やっぱり天才って孤独を好むのか、とか馬鹿なことを馬鹿な俺は考えた。ある日の昼休み、教室の隅の方で「さんって海外のコンクールで優勝ばっかしてるらしいよ!」「だからあんなにお高くとまってあたし達一般人とは口をきかないわけか」とか女子たちが話してるのが聞こえた。無性に腹が立って、拳を強く握り締めた。そして、そのうちのピアノの音と歌声は、消えた。 驚いた俺は、学校の帰りにの家を訪れた。は、ピアノの前に座っているのに弾く気配も歌う気配もなかった。ピアノに向かう背中は真っ白で、俺は少し怖かった。毎日、いつ行っても、の様子は変わらないままだった。本当に悲しいのはのはずなのに、俺の方が泣きそうになって、どうにかしてやらなきゃ、って思って俺はの手を取ると強く握った。の目がびっくりして俺の顔を見つめる。「あ、べくん・・・」「、俺はお前のこと好きだ」何いきなりこんな場面で告白してんだ俺、とか思って顔が熱いけど、そんなの気にしてられなかった。「阿部くん、でも私歌えない・・・」「歌えるよ!なら絶対歌えるよ!」握っていたの手をピアノにのせて、俺はの肩を抱いた。出来る、なら歌えるよ、って呟く。が小さく口を開いた。 「私、阿部くんへの気持ちを歌うよ」 音を喪くした歌姫に、 (僕がもう一度世界の音を授けよう) |