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「、数Tの教科書貸してくれる?篠岡が『ちゃんなら持ってるよ』って言ってたからさ」 「、今日調理実習でクッキー作ったんだよね?篠岡がそう言ってたからさ」 「、きのう部活休んだのって風邪?篠岡が心配そうに言ってたからさ」 「、明日誕生日なんだって?篠岡が言ってたからさ」 嬉しくないわけじゃない、そういうわけじゃなくて逆にものすごく嬉しいんだよ、栄口くんが私にいっぱい話しかけてくれるのはものすごく嬉しい。いつだって栄口くんは優しいし明るく話しかけてくれるもん。嬉しい、すごく嬉しいんだよ。だけど、だけど、どうしてその度に必ず最後に千代ちゃん?「篠岡が」「篠岡が」って、栄口くんは私に話しかけたいのか千代ちゃんと話をしたことを自慢したいのか、さあどっち?栄口くんはそのことに気付いてるのか気付いてないのか、さあどっち? 付き合ってるわけでもないのにそんなことを考える自分がすごく恥ずかしくて嫌だからずっと心の奥にしまって我慢してたのに、なんだか急にものすごく悲しくなって、私はついに思わず涙を溢してしまった。 「・・・栄口くん、の、ばか・・・っ」 「・・・?」 栄口くんからしたら、きっと今私が泣き出すなんてまったくもっておかしな話で、まったく意味が分かんないんだろうな。だって私が栄口くんのことこんなに好きだなんて、栄口くんは知らない。そして恋する女の子の心だって知らない。好きなはずなのに悲しくなっちゃうような気持ちを、きっと知らない。だから、今私が泣いたら栄口くんが困っちゃうんだ。泣き止まなきゃ、栄口くんに謝らなきゃ。そう思ったとき、今までずっと黙ってた栄口くんがいきなり私の手を引っ張った。ボスッと音を立てて、私の顔は栄口くんの肩にぶつかった。 「、ごめん」 いきなり栄口くんに抱きしめられた。茶色の髪が目の前で揺れる。うまく頭が回らないんだけど、でも、どうして私は栄口くんの腕の中にいるんだろう?周りで何人かの女の子たちが顔を真っ青にしているのが、栄口くんの肩越しに見えた。心臓の音がとてつもなく大きい。私、どうしたらいい? 「さ、かえぐちくん・・・あの、」 「ごめんね、。俺、泣かせるつもりはなかったんだけど」 「・・・?」 「俺ね、のこと好きだよ。だからさ、ついちょっと意地悪しちゃって」 ・・・私の耳には何が物事を都合良く聞き取るようなフィルターでもついてるのかな?栄口くんが、私のこと好き?うわー、本当になんて都合のいい耳なんだろう!びっくりしてそんなことを考えながら黙ってたら、耳元で栄口くんが「・・・、聞いてる?」と呟いたので、息がくすぐったくて、思わずまたびっくりした。 「き、ききき聞いてる、よ!だけど、でも、だけどね・・・!」 「、好き。ウソじゃないよ」 少し体を離して、栄口くんは正面から私をのぞき込むようにしてそう言った。ウソじゃない?私の耳に変なフィルターが付いてるわけでもない?さっきまで悲しくて流れてたはずの涙が一瞬で違うものに変わる。「あれ、?また俺泣かせちゃった?」と栄口くんが慌ててハンカチを目元に当ててくれた。そうだよね、栄口くんからしたらまったく意味分かんないよね。嬉しすぎて泣いちゃうような気持ち。栄口くんのことが好きすぎて泣いちゃうような気持ち。 「私も、栄口くんのこと好きだよ」 「うん、知ってたよ」 そう言って申し訳なさそうにちょっぴり笑った栄口くんの顔。思わず泣いちゃうような、この気持ち。 |