恋をした。最初で最後、それは一生分の恋。




























































嫌で嫌で嫌で仕方なかった。マフィアになるなんて思いもよらないし、ましてやファミリーのボスになるなんて真っ平御免だと思った。学校に行けば、隣の席のベルニールは将来のライバルマフィア、後ろの席のフィオレンツォは未来の同盟ファミリーのボス、斜め2つ前のイワンは俺の部下だ。決められた運命の中で平凡な毎日を暮らしてゆくのは俺には耐えきれなかった。俺を立派なボスにする為にやって来た家庭教師から渡された鞭も、何度も投げ捨てた。学校を抜け出しては街で暇を潰した。女を抱くことを知ったのも確かその頃だ。未だ子供扱いされていた俺にとって、女を抱くときは大人と対等だという自己満足(実際対等だったことは一度も無くて、常に相手の大人の女が優位に立っていたと思う)で満たされていた。絶頂に達する時のあの快感を、幸せと呼ぶのだと思っていた。だって大人達はそう呼んでいたから。ただしそこに愛があるか無いかの違いは大いにあったのだろうけれど。






























ある日、随分久しぶりに、真面目に朝から学校に行って教室の席に座っていた日、周りの奴らはもうあまり俺に関心を示すことは無く只数人の女子生徒だけが俺に抱かれたいと言い寄ってくる程度になっていたが、転入生が紹介された。ジャッポーネからの転入で、という名の彼女の世話役を、日本語が出来る俺に教師は頼んだ。そうすれば俺が真面目に毎日ちゃんと学校に来ると考えたのか、なんて単純。莫迦じゃないのか。不必要な馴れ合いが俺は大嫌いで、クラスの奴らの名前しか覚えてない、抱いた女の名前は覚えようともしないし聞くことすらしないし顔も思い出せない、縛り付ける馴れ合いなんて本当に大嫌いだ。だからこんな面倒な世話役も、今日1日校内を案内してやったら辞めてやろうと俺は考えた。ああ、センセイ、クラスノミンナ、俺は世界を知りすぎているのか知らなさすぎるのがどっちなのか教えてくれないか。ああそうだ、とかいう君、どうしてそんな目で俺を見るんだ。俺は不幸じゃない寧ろこれで幸せだと思っているんだよ。だからそんな不安な顔しないで俺の隣の席に座ればいいよ、明日には突き放してやるから。





「ディーノく、ん・・・よろしくね」
、・・・」





「よろしく」なんて言うのか。俺はお前の名前を呼ぶしか出来ないじゃないか。なぜならそんな言葉はとうの昔に無くしていたから。そんな小さな笑顔を見せるのは止めてくれ。どうしてだか分からない、胸が痛いから。痛い痛い痛い。止めてくれよお願いだからもう、痛い。こんな痛み感じたこと無い。こんな痛みなんか、俺は、知、ら、な、い。






























放課後の校内は夕方のオレンジ色と夜の紫が混ざり合った色で染まる。それなりに綺麗で、それなりに汚い。俺はに校内を案内して回った。俺だって久しぶりに来たよこんな所。行き方をちゃんと覚えていた俺に拍手だ。





「ディーノくん、ありがとう」
「え?ああ・・・別にどうってことねーから」
「ねえ、ディーノくん、・・・」
「何、言いたいことあるのか?」
「・・・ううん、何でもない!じゃあディーノくん、バイバイ。また明日ね」
「・・・」





または笑った。痛いから、本当に痛いんだ胸が、の所為だろう。ありがとうなんて言うなよまた明日なんて言うなよ、俺との明日なんて存在しない筈なんだから。
その日、また街に出て適当な女を連れてホテルに入って抱いた。だけどいつもみたいな、俺が思う幸せという名の快感は感じられず、心臓を何万本という針で一気に突き刺されて引き裂かれて死にそうな痛さだけが俺を襲った。痛い痛い痛い死にそうだ。





「ディーノ、あんた恋でもしたんじゃないの」
「こ、い・・・?」





抱いた女が呟いた。これが恋なのか、いや違うそんな筈無いだって俺は俺は俺はそんなものする筈がない。ああ、やめてくれこんな時にどうしての顔が出てくるんだ。違う違う違う、じゃないは関係ないじゃない。だって今日校内を案内しただけだ。街の夜は腹が立つほどにゆっくり明けて、朝が来た。が「また明日」と言った明日が来たことになるけれど俺には関係ないんだ。だって俺はお前を突き放すと。






























まだ空は夕方のオレンジ色だけだ。まだ夜の紫は色をあらわしてはいない。俺はなぜか学校に向かって走っていた。ちゃんとした理由があるわけではなく、ただ、胸が痛くて痛くて痛くて何も考えられずに我慢してたら体が楽になる方を求めて彷徨ってるんだ。ただ別れ際に名前も知らない今ですら顔も思い出せないような女が言った。「ディーノ、あんたは世界を知らなさすぎるのね」それが答えか。「ディーノ、ディーノ、それが恋よ」それはまだ分からないよ。





・・・っ!!」
「ディーノくんっ!?」





は校門の所に膝を抱えて座り込んでいた。俺は一瞬何が起きたのか分からなくて面食らったけれどすぐに思考を再開した。は立ち上がると急に俺に抱きついてきた。細い指が俺のシャツを握りしめる。頭半分小さいの体重が全て俺に預けられていた。は泣いていた。どうして、胸が痛いのが治まらない。じわり、と熱いものが胸に零れ落ちる気がする。





「あた、し・・・ディーノくんがいなきゃ、何も、出来な、い・・・」
、・・・」





まだ俺はの名前を呼ぶしかできないけれど、これを恋と大人は呼ぶのだと知った。




























































人を殺した。俺のに手を出そうとした男を殺した。家庭教師から渡されていた鞭を初めて使ったのはこの時だ。殺した殺した、締め上げた男の首の感触と絶える息の音が染みついた。この男はの友人だったと聞いた。自殺と処理された、前代のファミリーの権力で。本当の事は言えるはずがなかった俺が殺したんだと。随分と昔から敷かれつつあった俺のレールはこの時完全に定められてしまった。もう俺はマフィアになるしかないのか、俺はもう二度と人を殺したりしない、俺はもう決してから逃れることは出来ない。
純粋な愛はあの瞬間に消え果て偽善から形作られる愛が存在し。それを俺は一生の恋とする。





























(二度と恋をすることが出来ないのが僕への罰)