赤い太陽青い海。ハイスピードで走り抜けるハイウェイ、ラジオからは陽気なカンツォーネ、車内を吹き抜ける風、景色は飛ぶように移りゆく、運転席に座る君の咥える煙草の香り、全部溶け合う都会の真昼。このまま君と愛の逃避行でもかましてやろうかしら。君となら何処までだって行ける気がするのはあたしだけなんだろうか。例えるなら浪漫飛行。トランク1つでこの都会の街を飛び出して喧噪を忘れて、初恋のようなときめきを感じて飛行機に飛び乗る。考えるだけでこんな気持ちになるあたしは単純で幸せ者ね。ああ、ああ、それなのに。


















































「・・・」
「・・・」
「・・・ねぇ隼人」
「・・・んだよ
「コレ、どーすんの?」
「どーするって直すしかねーだろ」
「・・・直せるの?ってゆうか直るの?」
「まかせろ」





国際空港に向かうハイウェイの途中、突然のストップ。イタリア製の真っ赤なアルファロメオのスパイダー、中古だけど。オープンスポーツカーなだけに冬場は少し寒い、かなり風が冷たいけど、大胆かつエロティックなフォルムが特徴的で、その車を駆る者を未知なる官能に誘っていくんだと隼人が誇らしげに言ってた。あたしはそんなに車に詳しい訳じゃないから、隼人が言うことにただうんうん頷いて、随分前から車を欲しがってた隼人の希望を許してあげたわけですが。「中古じゃなくて新車にしたら?」って言ったのに、「バカか、こんなんいくらボンゴレファミリーだからって新車で買ったら1000万近く飛んでくんぜ」って隼人が言うから中古で買ったら(中古でも高かった!)、ス・ト・ッ・プ!ああ、だから言ったのに!!隼人ぐらい力があれば1000万くらい仕事の報酬ですぐに払える筈なのに。てゆうか隼人、お坊ちゃまなんだからいくらでもパパが買ってくれるんじゃないの?なのに妙に変なところで庶民派の隼人のおかげで、今足止め食っちゃってるあたし達。ああ、浪漫飛行はいずこへ!!??
しかもここはハイウェイ。路傍で止まってるあたし達の横をハイスピードで走り抜ける何台もの車。なに、この焦燥感。あたしは助手席に座って走り抜ける車をじっと見つめる。こんな時にこういう光景を見るのって気持ちのいいコトじゃないわ。隼人は車のボンネットをあげて、何が故障したのか見つけ出そうと必死だ。何かずっとカチャカチャ弄ってた隼人が腰を伸ばして起き上がった。





「エンジンの・・・・・・が調子悪ィみてーだな」
「隼人、それ何言ってるのかさっぱり分かんない」
「だから、・・・・・・が故障したって言ってんだよ」
「・・・で、直るの?直せるの?」
「・・・」





隼人はオイルで黒くなった手を見た。それからあたしを見て、ハイウェイを走り抜けていく車を見て、空を見て、またあたしを見て、オイルで汚れた手で頭を掻いた。





「あー、まぁ・・・簡単にはいかねーけど、な・・・でも、アレがあったらすぐ、直るんだ・・・」
「要するに、直せないってコトでしょ」
「・・・まぁ率直に言えばそんな感じだ」
「だからさっさとディーラー呼ぼうって言ったのに」
「悪ィ、・・・」
「飛行機間に合わなくなっちゃうじゃない!ツナ君や山本だって待ってるよ!!」
「・・・そーだな」





オイルで黒い手で隼人はまた頭を掻いた。さっきから思ってたんだけど、そんなコトしたら折角の綺麗な銀髪が台無しになっちゃうよ隼人。隼人はドアを開けずに跨いで運転席に戻る。それからオイル塗れの手をタオルで拭くと、シートを倒して空を見上げた。あ、ほっぺたにもオイルついてるの発見。





「ちょっと隼人どうするつもり?ずっと此処にいるわけにはいかないんだから」
「今考えてんだよ・・・」
「・・・だから新車にしようって言ったのに」
「そんなこと言うなよ。コイツは俺の大事な相棒なんだぜ」





大事な相棒ですか、コイツが。真っ赤なアルファロメオのスパイダーが。大胆かつエロティックなフォルムを持つコイツが。じゃあ助手席に座るあたしは一体何?今まで一緒に色んな仕事してきたあたしは隼人の大事な相棒じゃないんですか。確かに大胆じゃないしエロティックな体型でもないけど、胸だって大きくないし。エッチしても隼人を未知なる快感に誘ってあげることなんて出来ないような気がするけど。





「だけど、隼人の『大事な相棒』は故障しちゃったじゃん!どうしても動かないの。病気なのよ。もし車じゃなくて馬だったら撃ち殺されてるわよ、御者も一緒に!」
「んだよ、俺を撃ち殺すつもりか?」
「・・・」
「本当に悪ィと思ってんだよ・・・」





隼人がレバーを引いて、あたしが座ってる助手席のシートが倒れた。いきなりのことに驚いて一瞬目を閉じて、開けたら目の前には隼人がいて空が見えた。出逢った頃よりも伸びた銀色の髪があたしのほっぺたを擽る。隼人の吐息があたしを包む。いつになっても慣れない。普通に会話するより近くて、キスするよりも遠い距離が一番ドキドキするの。隼人はそれを知っててやるから意地悪。自分でもほっぺたが赤く熱くなるのが分かる。隼人が「」って呼んだけど、あたしは隼人の方を見ずに返事をした。





「何よ隼人」
「怒ってんのか?」
「当たり前でしょ」
「悪ィな、。でもは『大事な相棒』じゃなくて『大事な恋人』の方がいいんじゃねーのか?」





狡いよ隼人、やっぱり意地悪。どうしてこんな時にそういう事言うの。普段は全然そんな事言いもしないくせに、こんな時に言うから、嬉しくてあたしは怒ってる事忘れてしまうでしょう。隼人はやっぱりそれを分かってて言うから意地悪。昔はこんなんじゃなかったのにね隼人、もっと純粋だった気がする。
隼人が顔をもっと近づけてきて、キスしようとした。あたしは何だか悔しくて、掌で隼人の唇を遮った。





「・・・何すんだよ
「隼人、ほっぺたにオイルついてる」
「メンドくせーな」





隼人はそう言いながら笑うと、さっき手を拭いたタオルで顔を拭った。それからあたしのほっぺたに軽く掠めるようなキスをした。





「・・・飛行機行っちまったし、愛の逃避行、でもするか?」
「何それ、隼人っぽくない台詞」
「うっせー、車から降ろすぞ」
「やだやだ!あたし一生隼人についてくもん!」





隼人はそれを聞いて、もう一回今度は唇に深いキスをした。