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「雲雀くん、おはよう!待たせちゃってごめん」 「ああ、おはよう。別に待ってないよ、は時間通りに来てるじゃないか」 雲雀くんと、こうして待ち合わせするのは一体何回目だろう。雲雀くんはいつも、私が待ち合わせ場所に着くよりも早くその場所に立っている。これまでの一度も、私は雲雀くんより先に待ち合わせ場所に着いたことが無い。正確には、一回だけ少しズルをして、時間を間違えた振りをして待ち合わせ場所に行ったことがある。そうしたら待ち合わせ場所に現れた雲雀くんがものすごい顔で私を睨んできたから、それはノーカンにしてるんだけど。とりあえず、雲雀くんはいつも私より先に待ち合わせ場所に着いていて、私は壁や柱に背中を預けて立っている雲雀くんのかっこよさに遠くから惹かれながら、待ち合わせ場所に向かう。何回デートをしても、私は何回でも雲雀くんに惹かれてしまうのだ。もちろんそれは今日も同じ。だけど今日の雲雀くんは昨日までとは違う。だって、雲雀くんは今日お誕生日を迎えて私より一足先に15歳になったのだ。 「えっと、雲雀くんお誕生日おめでとう!」 「それ、今日になった瞬間も朝もメールで言ってただろ」 「いや、でも直接じゃなかったし!ていうか何回でも言いたいし!おめでたいことだし!」 「ありがと、」 「うんうん、おめでとうね!で、今日は、雲雀くんが言ってた通りでいいの?」 「うん、今日は僕がしたいことをする日」 「そうだね、雲雀くんのお誕生日だもんね!じゃあ、まずは何する?」 「それは歩きながら教えてあげる」 雲雀くんがさりげなく私の右手を握る。普段あんまり人がたくさんいるところでは手を握らない私たちだけど、今日はやっぱり特別らしい。私は本音ではいつもいつでも雲雀くんと手を繋いで歩きたいなあと思っているけれど、雲雀くんはちょっと恥ずかしいみたいで、あんまり繋いではくれない。でも、今日は雲雀くんから手を繋いでくれた。それだけで私は簡単に幸せな気持ちになれる、とても単純だ。 GW真っ只中なだけあって、街中はたくさんの家族連れだったりカップルだったりで大混雑している。はぐれないように、雲雀くんの手を握った右手にきゅっと力を込めたら、雲雀くんは何にも言わないで私の手を握り返してくれた。ちょっと耳赤くなってるよ雲雀くん。たぶん私は耳どころか頬っぺたも赤くなってるだろうから、言わないでおくけどね。 ********** そうして、雲雀くんと見た映画も、ごはんも、私は雲雀くんにお金を払うことを尽く阻止されてしまった。雲雀くんの誕生日なんだから私が払うよ、と言ったのに、雲雀くんは「今日は僕がしたいことをする日だって言っただろ」と言うだけでお金を受け取ってくれない。私、お金持ってないと思われてるのかな。確かに雲雀くんに誕生日プレゼント買うためにおこづかいをコツコツ節約したりしてたけど、それは全部ぜんぶ今日という日のためなのだ。だから大丈夫だよと言っても、雲雀くんは頑として受け入れない。いつもなら、困ったように笑って受け入れてくれるのに。 そんな雲雀くんを少し不思議に思いながらも、「僕のしたいことだ」と言われてしまうと強く言い返せなくて黙ってしまう自分が、ちょっと情けない。15歳になった雲雀くんは、やっぱり私より大人になっちゃったんだろうか。14歳の私は、雲雀くんに置いて行かれちゃうのかな。ねえ、雲雀くん。私ずっと雲雀くんと一緒にいたいんだ。来年も、再来年も、その次も、もっともっと後の誕生日も、ずっと一緒にお祝いしていきたいって思ってるんだよ。だから、置いて行かないで。 そんな気持ちを込めて、雲雀くんの手を強く握りしめる。 「、ちょっと休もうか」 「え、あっそだね、いっぱい歩いたもんね」 「それにが何だか考え込んでるみたいだからね」 「いいいいいや!?」 「ほんとは嘘つくの下手だね」 正直者だと、言ってほしい。だって、私は雲雀くんに嘘をつく気なんて毛頭ないのだ。ただ、今日は雲雀くんのお誕生日だから私がいいところを見せてあげたかったのになあとか、雲雀くんがどんどん大人になっていつまでも子供っぽい私が置いてけぼりになったら寂しいなあとか、そんなことを考えてしまって、そしてそんなことを考えていると雲雀くんに感づかれたくなかっただけ。だけど、雲雀くんはやっぱりすごいね。私が考え事してるって、簡単に分かっちゃうんだ。 公園のワゴンカーでクレープを買って、木陰のベンチに並んで腰かける。 「・・・えっと、雲雀くんお金払うよ」 「、今日楽しかった?」 「え?あ、うん。映画面白かったし、ごはんおいしかったし!」 「なんだか浮かない顔してるみたいだけど」 「・・・だって、今日雲雀くんの誕生日だから私いいところ見せたかった」 ベンチに置かれていた私の小さな右手を、雲雀くんの大きな左手が包み込む。 「あのね、。今日は僕の誕生日だろう。は僕が生まれてきたことをお祝いしてくれようとした、それはとても嬉しいし泣きそうなくらいだよ、鬼の風紀委員長として畏れられているこの僕が、泣きそうなくらい」 「うん、泣いてもいいよ」 「でもね、僕にとっては今日は、まるで人間みたいな心なんて持っちゃいなかった僕をこんなふうにしてくれた人に、感謝する日なんだよ」 「・・・?」 「僕は今日、に、僕を好きになってくれたに感謝の気持ちを伝えたくて、だから『僕のしたいことをする日』だなんて言って、僕のやりたいように無理やりを付き合わせてしまった」 「雲雀くん、」 「・・・だけど、に悲しい思いをさせたみたいだ。僕は、のおかげで少しは人間らしくなれたと思うけど、それでもこんなふうにやっぱりダメな部分がたくさんある。そんな僕の傍にいてくれるのは、しかいないと思うんだ。だから、」 「雲雀くんっ」 「・・・どしたの、」 「あのね、あのね・・・そんなむずかしいこと、考えなくていいんだよ。急に、大人になったりしないで・・・私を、置いていっちゃいやだよ・・・私はずっと、ずっと、ずっと雲雀くんと一緒にいるよ、どんな雲雀くんでもずっと大好き、だけど、私を置いていかないで」 「・・・」 「私がね、欲しいものはね、ひとつだけだよ」 「ずっと手を繋いで隣を歩いてくれる雲雀くん、雲雀くんがいれば他にはいらないんだよ」 左手に持っていたクレープは、泣いてしまうのを必死に我慢するために力を入れ過ぎたせいでもう食べられる形を成してはいなかった。結局私は泣いてしまったから、努力は水の泡だけど。左手はクレープ、右手は雲雀くんに握られているせいで涙も鼻水もぬぐうことが出来ずぼろぼろになっている私なのに、雲雀くんは右手を引っ張って私をそのままぎゅっと抱きしめた。そして「ごめんね、」と小さな声で呟いて、小さな子供をあやすように私の背中をぽんぽんと優しく叩く。 「こんなダメなところがいっぱいある僕だけど、かっこよくないところたくさんある僕だけどそれでもいいの」 「いいんだよ、ダメなところはお互い様だしこれから一緒に直そう、これ以上かっこよくなったら雲雀くんモテモテになるからならなくていい」 「何それ、」 「へへへっ、今日の仕返し」 「クレープ、もう一回買いに行こうか」 「うん、私お金出すよ」 「じゃあ半分こしよう」 「うん、半分こして、一緒に食べよう」 泣き笑いみたいな変な顔の私と、優しい顔の雲雀くんと、二人でひとしきり笑ってから、雲雀くんが私の右手を引っ張ってベンチから立ち上がる。そうだよ、難しいことなんて何にもいらない。こうやって、手を繋いで、同じものを見て、同じものを聞いて、楽しいとか嬉しいとか寂しいとかいろんなものをシェアしていこうよ。そうやってずっとずっと一緒に、同じスピードで生きていこう。 私の幸せが雲雀くんの幸せで、雲雀くんの幸せが私の幸せでありますように。 |