風邪を引きました。
日差しの照りつける、うだるような暑い日に。
「あー、今日はせっかく武とデートだったのに・・・」
「仕方ないでしょう、風邪引くが悪いんだから。治ったらちゃんと山本くんに謝るのよ」
「分かってるよそんなことー」
暑い夏。
忙しい野球部の練習の合間を縫って、武と海に行く約束してたのに。
熱を測ったら38℃近くあったあたしの体温。
下がれ下がれと祈ったのに、その願い空しく。
あたしは額に冷えピタを貼って、布団にくるまっていた。
「じゃあ、お母さんちょっと用事で出かけてくるから大人しく寝てるのよ」
「はーい・・・」
部屋から出て行くお母さんの背中を見送りながら目を閉じて、
そのままあたしは眠ってしまった。
誰かに頬を触られたような気がして、あたしは目を覚ました。
「ん・・・お、母さん・・・?」
「誰がお前のお袋だって?」
聞こえたのはここにいるはずのない武の声。
「・・・た、武?!なんでここにっ・・・」
「コラコラ、病人は大人しく寝てろって」
いきなり起き上がったあたしは、酷い目眩に襲われて頭を抱えた。
それを優しく抱き止めて、武はあたしをゆっくりとベッドに押し戻した。
「すっげぇ汗かいてんじゃん。ドリンク飲むか?」
「うん・・・ありがと」
「いいってコトよ」
武はコンビニの袋の中から、スポーツドリンクを取り出すとあたしに手渡した。
まだ買ってから時間が余り経っていないんだと思う。
スポーツドリンクのペットボトルには大量の水滴がついていた。
それに手に取った瞬間の冷たさがものすごく気持ちいい。
それから武は、冷えピタの貼られた額に触れてきた。
「熱いな。張り替えるか?」
「うん、机の上に新しいのあるから、取ってくれる・・・?」
「おう」
武は新しい冷えピタを袋から取り出すと、フィルムを剥がし始めた。
「ねぇ武、あたし自分でやるからいいよ」
「まあまあ、は病人なんだから大人しく寝てりゃあいいんだよ」
「でも・・・」
「ホラ、おでこ出せって」
あたしは前髪を掻き上げて、額を出す。
もう効果のない冷えピタをはずして、武が貼ってくれる新しい冷たい冷えピタの感触が気持ちいい。
その気持ちよさにしばしあたしが目を閉じていると、冷えピタ越しに
手ではない、なにか別の柔らかい感触がした。
目を開けると、すぐ目の前に武の顔があった。
「武、何やってるの・・・?」
「はやく治るおまじない、みたいな」
「冷えピタ越しで効果あるの?」
あたしは、冷えピタを貼る前にやってくれたら良かったのに、という意味で言ったんだけど。
どうやら武には違うように聞こえたらしい。
「・・・ホントなら今日のデートで最近出来なかったコト色々ヤろうって思ってたんだけど
が風邪だって言うから我慢してたんだよな。でもがそう言うんなら仕方ねぇな」
「あ、れ・・・武、あたしそう言う意味で言ったんじゃ・・・」
「の言うとおり、冷えピタ越しじゃ効果ねぇよな。やっぱ直接じゃないと」
武はギシッと音を立ててあたしの上に馬乗りになった。
既に武の手はあたしのパジャマのボタンを外しにかかっている。
「ちょっと、武・・・!あたし病人なんだけど」
「風邪は汗かいた方が早く良くなるんだよ」
「だからってこんなコト・・・っ!」
言いかけたところで口を塞がれる。
自分の体温より低い武の唇は冷たくて、不覚にも気持ちいいと思ってしまった。
差し込まれた舌に翻弄されて、もともとそんなに力はなかったけど、体中の力が抜けていく。
少しして解放された唇から、思い切り息を吸い込む。
熱の所為と少し長いキスの所為で、あたしの視界は涙で微かに滲んでいる。
「風邪、うつっても知らないんだからね・・・」
「望むところだ」
そう言って武は微笑むと、あたしの上に覆い被さってきた。
あたしが再び目を覚ますと、武は既にちゃんと服を着ていて、あたしの枕元に座っていた。
その手には、水で濡れたタオルが握られている。
自分の身体を見ると、やけに身体がさっぱりしていることに気がついた。
「・・・武、もしかして・・・」
「あ?ああ、すごい汗かいてたからさ。拭いておいた」
そんな明るく言われても。
恥ずかしいような嬉しいような、ありがたいような困るような。
色々混ざって複雑な気持ちなんだけど。
「ほら、新しいパジャマとか出しておいたから」
「・・・あ、りがと」
あたしは武が出してくれたパジャマに腕を通して、再びベッドに横になった。
武がそっと額に手を置く。
武が貼ってくれた冷えピタは、先刻の行為の最中に取れてしまっていたから、
直接武の体温が伝わってくる。
「さっきより熱くなくなったな」
「ホント・・・?」
「おう。やっぱおまじないのおかげだな」
そう言って武は笑った。
「武・・・ありがと」
「ん?」
「ありがと、って言ったの」
「気にすんなよ」
「・・・それから、ごめんね」
「何が?」
「遊びに行けなくなっちゃって・・・」
「別に?こうやって二人でゆっくりするのもいいんじゃねぇの?」
「そうかな・・・?」
「そうだって」
「また、今度遊びに行こうな」
「うん」
だって僕らの夏は始まったばかり。
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自分が風邪引いたので。
山本に看病していただきたいです。